＊ ページ4
「赤いリボン……てことは、１年生か。あんまり遅くまでここにいると、先生に鍵閉められるよ」
「先輩も、ですよ」
「んん、俺はいいの。抜け道、知ってるから」
「なんか、ズルいです」
なんか、デジャヴっぽい。空色のネクタイから察するに、先輩は３年生。私と２つしか変わらないのに、どうしてこんなにも大人っぽく見えるのかな。それとも、彼だけが特別なのか。
それから、ポツポツと言葉を交わす。初めて会ったはずなのに、初めてじゃないような不思議な感じ。言葉が詰まることも、空気が重くなることもなかった。
「それじゃあ……あれ？ そう言えば、名前聞いてなかったね」
「あ。本当ですね」
くすくす。青空が眠って、三日月が顔を出す。柔らかく目を細める姿に、やっぱり重なるものがあって。
「えっと、俺は、」
「……そらるく、っ」
「っ、」
あっと思う時には、すでに遅いのだ。彼の音に被せるようにして、いつかの名前が飛び出す。驚きで広がる蒼空と詰まった息。駄目だ、これは。選択を誤った。
誰だってそうだろう。自分の自己紹介の途中で、見知らぬ誰かの名前を出されて、良い気をする人なんているはずがない。私だって、そんなの嫌だ。
ぐちゃぐちゃで、ぐるぐるで。後ろ向きに考えていた私は気付かなかった。
彼が、懐かしげに目を細めて、ちょっとだけ涙ぐんでいた事に。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 48人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ほさと - とても感動しました。占ツクの歌い手様を扱った作品には珍しくしっかりと小説になっていて、一介の読書好きとしても嬉しかったです。どの作品もとても美しい比喩があり、音読したい作品だなぁと思いました。 (2019年7月14日 20時) (
レス) id: fdc2472f82 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - 皆様の素晴らしい文章に心が震えました。ありがとうございます。執筆お疲れ様でした。これからも頑張って下さい。 (2019年6月17日 16時) (レス) id: d99258de7b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
