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あの雨宿りの日から一週間後。
今日は、文化祭だ。
そして私は、本当なら絶対来ないであろう場所に来ていた。
たくさんの人、声、音。
どこからかギターの音が聞こえてくる。裏で練習でもしているのだろうか。
そう、私は坂田くんのバンドを見に来ていた。
本当は行くつもりなかった。
こんなに賑やかなところ、私に合ってないし。現に今も場違い感あふれてるし。
けれど、坂田くんの「待ってるな」という言葉にそんな考えは消え去ってしまった。
暗くなった会場に、観客の声が響いた。
私も不思議とわくわくしてしまっている。
………思っていたよりも、楽しめそう。
そしてステージに出てきたバンドのメンバー。
五人くらいの人が出てきたが、私は一人の人から目を離すことが出来なくなっていた。
坂田くんだ。
ボーカルである彼はいつもとは違う、真剣な顔でマイクに手を伸ばした。
「皆さん、今日は俺たちのライブに来てくれてありがとう。少しの間だけど、楽しんでください」
おおー！！という観客の声が響く中、私は坂田くんの吐いた ふぅ という音が耳に入った。
緊張しているのだろう。当たり前だこんなに多くの人の前に立っているのだから。
そのまま彼は誰かを探すように観客を見始めた。
そして、私と目が合ったとき微笑んで、そして口を開いた。
「最初の曲は、ある一人の人に向けて捧げます。どうぞ、聞いてください＿＿＿＿」
会場が騒めいた。
それは彼の言った曲のタイトルが全くマイナーなもので分からなかったからだろう。
普通ならこういう時歌う歌は皆がよく知っている歌にするだろう。
けれど、私の心臓は大きく音を立てていた。
「……うそ、」
誰にも言っていない筈の私の一番好きな歌。
知っている人なんてほとんどいないような歌だけれど、私は本当に大好きな歌だ。
彼が知っていたなんて、そして私と目が合ったのも、まるで
(私が好きだって知っていて選んだみたいだ)
けれど、会場の騒めきも雑音も全て彼の息を吸う音に消されたようだ。
マイクに両手をかけ、目を瞑り、坂田くんは歌い出した。
『Aは好きな歌とかあったりするん?』
『____かな』
『え、何それ。初めて聞いたんやけど』
『あんまり有名じゃないからね。でも本当に大好きな歌なの』
「っ、いたっ」
頭が、痛い。
痛い、痛い。嫌だ、なんで。彼の歌を、聞かせてよ。
燃えるように、頭が、痛い。
けれど、彼から目を離すことはできない。
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ほさと - とても感動しました。占ツクの歌い手様を扱った作品には珍しくしっかりと小説になっていて、一介の読書好きとしても嬉しかったです。どの作品もとても美しい比喩があり、音読したい作品だなぁと思いました。 (2019年7月14日 20時) (
レス) id: fdc2472f82 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - 皆様の素晴らしい文章に心が震えました。ありがとうございます。執筆お疲れ様でした。これからも頑張って下さい。 (2019年6月17日 16時) (レス) id: d99258de7b (このIDを非表示/違反報告)
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