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シャラシャラ……
ギターじゃない。あの日とは違う、ピアノの音。彼の練習していたワンフレーズをなぞる。この音を忘れなかったら、いつかそらるくんが曲名を教えに来てくれるんじゃないかって。いつかの有りもしない未来に夢見てる。
「10年って、さすがに重いかな……」
そもそも、彼が本当に存在していたのかすら定かでない。当時の担任の先生も、両親も、クラスメイトも。みんな口を揃えて同じ音。
そらるくんなんて、しらない。
仕舞いには、私の創りだした『イマジナリーフレンド』なんじゃないか、なんて。なんて失礼なんだ!
「あーあ! 早く迎えに来てよ王子様!」
零した想いにパタンと蓋をして。黒い冷たさに頬を付けた。約束、したのに。曲名、教えてくれるって約束したのに。嘘吐きな王子様だ。
いや。元を辿れば、あの日に熱を出した私が悪いのだけれど。
ぼーっと、窓からの景色を眺める。同じところをぐるぐると喧しく走っているのは野球部か、サッカー部か。もしかしたら違う部活かもしれない。
あの日とはほど遠いのに、何だかあの日みたいな気がして。校舎の最上階の最奥。埃っぽくない音楽室にひとり。ピアノも弾かずに、静かに、黙って、ぼーっと。そうしたら、
シャラシャラ……
そう、こんな感じにシャラシャラって響い、て……?
げんちょう、かな。未練がましく懐古するあまり、幻聴まで聞こえ始めたらたまったもんじゃない。
シャラシャラ……
そうしたら、もう一回。幻聴じゃない、ここにいるぞって主張するみたいに。音の発生源は、あの日と同じ隣の音楽準備室から。人がいる気配なんてしなかったのに。
音を立てないように、そうっと移動して覗く。
「ねぇ。そうやって聴かれるの、ちょっと恥ずかしい」
「……っえ、あ」
不自然なところで止めた音と、続きを奏でる透明な声。いつから気付いていたのかなんて、すっかり聴き入っていた私には分からないことで。
「ご、ごめんなさい。綺麗なギターが聴こえたから、つい……」
「そっか。じゃ、こっちおいで?」
ふんわりと笑う青に、惹き寄せられる。この曲に、ドラムは必要ないの。だから、それ以上心臓は、高鳴らないでいて……
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ほさと - とても感動しました。占ツクの歌い手様を扱った作品には珍しくしっかりと小説になっていて、一介の読書好きとしても嬉しかったです。どの作品もとても美しい比喩があり、音読したい作品だなぁと思いました。 (2019年7月14日 20時) (レス) id: fdc2472f82 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - 皆様の素晴らしい文章に心が震えました。ありがとうございます。執筆お疲れ様でした。これからも頑張って下さい。 (2019年6月17日 16時) (レス) id: d99258de7b (このIDを非表示/違反報告)
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