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深呼吸一つした坂田がまっすぐに俺の目を見て言葉を紡いだ。
「あんな、あの事故でまーしぃの臓器は治療ができないほどにぐしゃぐしゃやった…
その臓器を……Aから移植して、今のまーしぃは生きとるんや。
だから、まーしぃの体の中に、Aは生きとるんやで。」
「……マジ、か。」
「…そりゃ、好きな人失って辛いんは分かるで。
僕らはその苦しみを味わうことも変わることもできんけど。
仲間やろ、僕ら。一緒にいることは、支えてあげることはできるんや。」
「だから、生きている意味が価値が……ないなんて言うなよ。
俺らが…いる、辛いかもしれないけどAだってまーしぃの中にいる。
それを……無駄にすんじゃねぇ………」
彼女が、最期にくれた愛を、俺が生きるためのプレゼント。
適合なんて、移植なんて、そんなに簡単にできるものじゃないだろう。
それでも、神様が起こしてくれた最後の奇跡というべきなのか。
「A……A……!」
『まーしぃ……愛してる……』
最期に聞いた言葉は愛か呪いか。
どちらでも構わない。彼女が生きていたら、それだけでよかったのに。
ソレが叶わないというのなら、あの出来事を俺に変わらせてくれないのなら
俺は、彼女を思って何度も歌を捧げよう。
命に嫌われた俺と、生に嫌われたAのために。
ただ、大切な人が生きていることが。何気なく過ごしている日々が
『生きているだけ』がとても素晴らしいことなのだということを。
それを伝えることが、残された俺の使命であると信じて。
「…3人とも、ありがとうな。」
「まーしぃ…」
「大丈夫、もう死にたいとか言わんから。」
「…今日くらい、疲れるまで泣こうや。話してもえぇで?何でも聞くからな。」
「ありがとうな、センラ君。」
「まーしぃ……」
「そんなに泣かんといてやうらたん。俺までまたもらい泣き……するやろ……」
心配そうに見つめてくる坂田と、優しく微笑んでくれるセンラ君。
そして、俺の胸元をタオルにして泣きじゃくっているうらたん。
最高の、仲間だと思う。彼らと一緒にいることが、俺のこれからの生きる意味であり価値だ。
そしてA……愛した彼女のことを、忘れることはない。
彼女は…俺の中で記憶と共にずっとずっと生きていく。
「愛しちゅうよ……A。ずっと、な……………ありがとう。」
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ほさと - とても感動しました。占ツクの歌い手様を扱った作品には珍しくしっかりと小説になっていて、一介の読書好きとしても嬉しかったです。どの作品もとても美しい比喩があり、音読したい作品だなぁと思いました。 (2019年7月14日 20時) (レス) id: fdc2472f82 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - 皆様の素晴らしい文章に心が震えました。ありがとうございます。執筆お疲れ様でした。これからも頑張って下さい。 (2019年6月17日 16時) (レス) id: d99258de7b (このIDを非表示/違反報告)
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