【志麻】Elegy/Elice ページ16
――生きているだけで、ただそれだけでよかったのに。
その言葉の意味を、重さを、大切さを。
あの曲を投稿した時の俺はいまいち理解してなかっただろう。
もしも、この歌が君に届いているのなら。俺の哀しみが伝わるのだろうか。
Elegy
※本作品は『死』を取り扱っております。苦手な方はこれ以降の閲覧をご遠慮ください
「あー…つっかれた。」
1日の仕事を終えて、ベットに倒れこむ。
酒の入った体はいつもよりもずっと重たく感じ、意識をつなぎとめるのがやっとだ。
時計を見れば針はまもなく頂点で交わろうとしていた。
家にいるときの大半を過ごすデスクとも、今日は一緒になろうと思わない。
ただ、ポケットに突っこんだままのスマホを弄って電話をかけた。
「…今何時だと思ってるのかな志麻君。」
「えぇやろー、どうせ起きてるやろー、疲れてるんやから癒してや。」
「しかもけっこうがっつりお酒入ってるよね!?」
「当たり前やろー?」
まったくもう…なんて、呆れたように言う彼女に、感情をこめずにごめんと謝れば
何とも思ってないでしょ!と簡単に見破られた。
……彼女、Aと付き合いだしてからかれこれ3年がたつ。
歌い手として活動して、浦島坂田船というグループを作って、軌道に乗ってきた頃に
同じく歌い手として活動している彼女と出会った。
実際にあったのは共通の歌い手の友人が開いたカラオケパーティー。
互いにゲームが好きということもあり、俺らが仲良くなるまでに時間はかからなかった。
正直、ひとめぼれだ。肩の上で切り揃えられたボブカット。
ひざ上丈のスカートから覗くすらっとした足。まさにドンピシャのタイプだった。
歌い手という人気商売にもかかわらず、彼女に告白した理由は…もちろんそれだけやないけど。
「…ちょっと?自分から電話してきたのに聞いてるのー?」
「あー?聞いちょるわ。」
「絶対に聞いてない……早く水飲んで寝て!明日デートでしょ!」
「はいはい…Aー」
「なに!」
「愛しちゅうよ。」
「…不意打ちは卑怯だよ!」
電話越しに聞こえるバフっと何かに突っ込むような音…
彼女が照れてクッションにでも顔をうずめているのだろう。
からかいがいのある、可愛い彼女である。
「まーしぃ…私も大好きだよ、おやすみ!」
「…言い逃げは卑怯やろ。」
こんな幸せが、ずっと続くと思っていた。
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ほさと - とても感動しました。占ツクの歌い手様を扱った作品には珍しくしっかりと小説になっていて、一介の読書好きとしても嬉しかったです。どの作品もとても美しい比喩があり、音読したい作品だなぁと思いました。 (2019年7月14日 20時) (レス) id: fdc2472f82 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - 皆様の素晴らしい文章に心が震えました。ありがとうございます。執筆お疲れ様でした。これからも頑張って下さい。 (2019年6月17日 16時) (レス) id: d99258de7b (このIDを非表示/違反報告)
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