【うらたぬき】月光/あおい ページ11
放課後、ほとんど人のいない廊下を駆け足で目的地に向かう。目的地からは心地の良いメロディーが聴こえてきて、先輩がもう到着していることを知らせた。
音楽室の前に立って息を整え、先輩の邪魔をしないように静かに室内に入って、ピアノを弾く先輩を眺める。
「そんなにじっと見られると、気になるのだけど？」
「あ、邪魔しちゃいました？」
「邪魔ってほどじゃないけど、来たなら声かけてくれたらよかったのに」
「集中してるみたいだったから、1曲終ってから声かけようと思ってたんです」
視線が気になったのか途中で演奏をやめて僕に声をかけてきた先輩。
「うらたくん、毎日ここに来てるけど部活とか行かなくていいの？」
「僕、どの部活にも所属してませんから」
「そっか。でもそれなら早く帰って遊ぶとか、勉強するとかすればいいのに」
「A先輩と出会うまではそうしてましたよ。先輩のピアノを聴きたいって思ったから、毎日ここに来てるんです」
そう言えば先輩は、うらたくんは変わってるね、なんて笑ってピアノの演奏を再開した。
*****
「そうだうらたくん」
「はい？」
「明後日、暇かな？」
「明後日ですか？」
帰り際、昇降口に向かう途中、先輩からの突然の問いかけに一瞬思考が止まる。確か明後日は何も予定はなかったはず。
「暇ですけど...。明後日、何かあるんですか？」
「昔お世話になったピアノ教室の先生から、演奏してくれない？ってお願いされてね。誰か連れてきてもいいよって言ってたから、うらたくん来ないかなって思って聞いたんだけど...」
「行きます！行かせてください！」
つい勢いよく返事をしてしまった。その勢いに先輩も驚いている。
「あっ、えっと...。ごめんなさい。驚かせてしまって」
「ううん、大丈夫」
「誘ってもらえたのがうれしくてつい」
「喜んでもらえてよかった。場所は後でメールしとくね」
「わかりました。先輩の演奏、楽しみにしてますね」
「うらたくんが来てくれるなら頑張らないとね。じゃあ、また日曜日に」
いつもと違う別れ際のあいさつ。また来週が、日曜日に変わった。そんな些細な違いがなんだかくすぐったい。日曜日も先輩に会えて、先輩のピアノが聴ける。それだけですごくうれしくて、早く日曜日にならないかな、なんて。そんなことを考えながら帰路についた。
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ほさと - とても感動しました。占ツクの歌い手様を扱った作品には珍しくしっかりと小説になっていて、一介の読書好きとしても嬉しかったです。どの作品もとても美しい比喩があり、音読したい作品だなぁと思いました。 (2019年7月14日 20時) (
レス) id: fdc2472f82 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - 皆様の素晴らしい文章に心が震えました。ありがとうございます。執筆お疲れ様でした。これからも頑張って下さい。 (2019年6月17日 16時) (レス) id: d99258de7b (このIDを非表示/違反報告)
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