【文スト】大好きな貴方に、手袋を買いに。【男主】

6-3　たそがれ と やつがれ ページ25

こんなに冷たい太宰を見ることは滅多にない。
いくら俺の首を傷つけたからってこんな対応をするような太宰(ヒト)じゃあないと思う。


『だ、太宰？ なんでそんな機嫌悪いの……。
俺は大丈夫だよ？』

「Aは良く出来た子だ。
教えた言葉は直ぐにメモして覚えるし、毎日勉学を怠らない上に、探偵社の仕事だってこなすからね」


『ねえ、だざい……？』


「っ……」

芥川が何か云いかけた時、急に横から腕が伸びてきて俺を引っ張った。
咄嗟に反応出来ずされるがままに引き寄せられる。

『ね、ねえ、いい加減に……！』


「だから、Aに手を出すのは辞めてくれないかい？
これは、飽くまでも私と芥川くんの事情だ」


喋りながら、太宰はさり気なく俺の首の血を素手で拭う。


『太宰、そんなことしたら汚いから。太宰の手が血塗れに……』

「っ、分かりました。
しかし、新美A、貴様のような異能力も持たない無能が太宰さんの隣に何時迄も居られると思うな。
僕が必ずや――太宰さんに認められて見せる」


『…………』

無能、無能と云われると、矢張り怖くて、強がろうとしても声がでなかった。



芥川がすれ違っても尚、俺は体が動かずに芥川が見えなくなるまで突っ立っていた。

漸く、芥川が居なくなった事を確認するなり俺はふっと糸が切れたようにその場に座った。


『太宰、俺……』


――――太宰にとって、要らないものなのかな？


そう続けようとする前に

「駄目だよ。その先を続けるなら、いくらAでも怒るよ」

『だって、先刻――』


俺に怒るという行為をしたことが無い太宰が真剣な顔で云う。

「あれは、芥川くんが勝手に云っているだけだよ。
私には、Aが必要さ。
仕事とか手伝ってくれるし」

『うん……』


結局は、俺は太宰が仕事するように見張ったりするだけで、太宰という人間の感情では俺を欲してはくれないのだろうか。


「でも、仕事なんてどうだっていいのだよ。

私が探偵社に居ることでAの身に危険が降りかかるようなことがもしあったら、私は迷わず探偵社を辞めるだろう」

まるで、俺の心を読んだような太宰の言葉に俺は何と返せば良いのだろう。



『……太宰、』


――――太宰は、俺の事、好きで居てくれる？


「ん？」

『……歩けない、から、おんぶ……して欲しいな』

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