+ ページ8
私は手元のビニールを見てハッとした。
「あ…お兄さん、私アイス２つ買ったので１つ食べません？」
その人の顔色があまりに悪いから。
汗をかいている様子もないしお節介かもしれないけど、一言話した仲だ。…一言だけ。
「私今ちょっと頭クラクラしてて、しばらく帰れそうにないし…アイス溶けちゃうのもったいないから」
そう言って差し出すと、断るのも面倒だと思っているのがわかって少し心に刺さった。
お兄さんは仕方なくと言った様子でアイスの袋を開ける。
大人しく食べてくれたところを見届けてホッ、と安心した。
そのあとゴミを渡されたと思ったら当たりの棒だったのはいい思い出である。
これが一昨年、初めてこの人と出会った夏の記憶だ。
今思えば初めて会ったその日が1番喋った。
そのおかげでなんとなくこの人の性格は掴めたような気がする。
それ以降の夏もなんとなく会いたくなって顔を合わせていたけど、目もほとんど合わなければ会話もない。
そして、私は今年もきた。
ソーダのアイスを食べながらベンチに座る。
毎年恒例の沈黙。だけど嫌ではない。
「………………」
「………………」
家で仕事をするタイプの私は正直このお兄さんと1番顔を合わせてると思う。
そしてここにきて、この人の顔を見てようやくこの季節を実感する。
「………夏が、来ましたねえ…」
久々にこの人に向けて発したその一言。
お兄さんは返事こそしないけれど、頷くようにゆっくりと瞼を閉じた。
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 86人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
紅月天音(プロフ) - 霊夢どうふさん» ありがとうございます！！更新は遅いですが、お話の質は落とさないようにしていきたいと思います！ (2018年7月26日 13時) (
レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
霊夢どうふ - 芥川さんが多い上に描写がふつくしすぎる！更新頑張って下さい！ (2018年7月26日 1時) (レス) id: 8add41b466 (このIDを非表示/違反報告)
紅月天音(プロフ) - ワッさん＋aさん» 素敵な感想をありがとうございます!!今後も期待に応えられるようにお話を作れたらいいなと思いますので、よろしくお願いします！ (2018年3月31日 12時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
ワッさん＋a(プロフ) - 背景と、主人公の心情の移り変わりがとても細かく書かれていて素敵です!!!! 惚れました!!!!之からも楽しみにしています!!!! 更新頑張って下さい!!! (2018年3月30日 21時) (レス) id: 0cdcac71cf (このIDを非表示/違反報告)
紅月天音(プロフ) - 紫猫日和さん» 大変長らくお待たせいたしました！すみません、芥川sideは難しくて中々筆が進まず…！ようやく完成いたしました！リクエストありがとうございました！またお気軽にどうぞ！ (2018年1月24日 17時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：紅月天音 | 作成日時：2017年10月16日 17時
