【また明日、ここで。】太宰治 ページ42
*
「やあ、素敵なお嬢さん。細くて長いその指で私の首を絞めてはくれないかい?」
店を開けて早々、今日もなかなか『平和』と言う訳にも行かなそうだった。
私はその男には見向きもせず、手元にある本のページを一枚めくる。
男は次の言葉を話そうとはしない。ページを捲る音だけが妙に響いた。
「連れないなぁ」
「太宰さん、ここは本屋です。私語は謹んでくれませんと、私は貴方を出禁にしなくてはならなくなります。」
「おや、それは困った」
全く困った顔をせずにそう答えた男、太宰は相変わらず楽しそうにニコニコとしながら私をみている。
何があろうと太宰さんの首を絞める事はないし、希望通りの回答をした覚えもない。だと言うのに、どうしてこんなに私を見つめたままじっとしているのだろう。
本から目を離すと、片時も私から目を逸らさない太宰さんと目が合った。
「…用がないなら帰ってくださいますか」
「用ならあるよ。」
「……なんです?」
どうせまたロクでもない事だろうと思うと、無意識に眉が寄って険しい顔になってしまう。
お店の客足はそこそこだし、太宰さんのせいで売り上げに影響があるかと言われればそうでもない。
でも仕事の邪魔なのは確かだし、私はこの男に気に入られるような事をした覚えがない。
「………あの、ここ一週間くらい毎日私の前にいますけど…私何かしましたっけ」
「やだなぁ、忘れたの?」
「え…す、すみません…なんでした?」
でも私の記憶にはこの人は存在しない。
1ヶ月ほど前に本を買いに来てくれた事は覚えている。でもこれと言って会話はしていないし、強いて言うなら『カバーお掛けしますか?』『お願いします』くらいのものだ。
なのにどうしたって彼は私の前に現れ、挙句仕事を邪魔しているのだろう。
「君が私の心を奪ったからさ!」
思わず殴りたくなった手を強く握る。
まったくこの男は、人を怒らせる天才だ。
そもそも、この歳で仕事をしていないと言うのもいかがなものだろうか?
そろそろ仕事の一つや二つしなければ今後家族どころか友達1人できなそうだ。
「…貴方、仕事は?」
「一応してるよ。探偵のね」
「た、探偵さん!?」
その胡散臭い笑顔からは探偵なんて職業は微塵も感じられなかったのだ。
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紅月天音(プロフ) - 霊夢どうふさん» ありがとうございます!!更新は遅いですが、お話の質は落とさないようにしていきたいと思います! (2018年7月26日 13時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
霊夢どうふ - 芥川さんが多い上に描写がふつくしすぎる!更新頑張って下さい! (2018年7月26日 1時) (レス) id: 8add41b466 (このIDを非表示/違反報告)
紅月天音(プロフ) - ワッさん+aさん» 素敵な感想をありがとうございます!!今後も期待に応えられるようにお話を作れたらいいなと思いますので、よろしくお願いします! (2018年3月31日 12時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
ワッさん+a(プロフ) - 背景と、主人公の心情の移り変わりがとても細かく書かれていて素敵です!!!! 惚れました!!!!之からも楽しみにしています!!!! 更新頑張って下さい!!! (2018年3月30日 21時) (レス) id: 0cdcac71cf (このIDを非表示/違反報告)
紅月天音(プロフ) - 紫猫日和さん» 大変長らくお待たせいたしました!すみません、芥川sideは難しくて中々筆が進まず…!ようやく完成いたしました!リクエストありがとうございました!またお気軽にどうぞ! (2018年1月24日 17時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅月天音 | 作成日時:2017年10月16日 17時