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「………ね、待ち人来たる。でしょ?」
「……………手前なァ…、」
あの時より伸びた髪に、女性らしい身体つき、そしてあの時と変わらない笑顔。
あれだけ待ち焦がれていたと言うのに、いざ前にしたら何も言う言葉が出てこない。
「ねえ、私だってわからなかったでしょ?
私の異能力も進歩したんだよ」
そうだ、以前はよく知っている人物に最大数分なれる程度だった。
まあ、香りは隠せないあたりいつもどこか抜けている此奴らしいと言えるのだろう。
「…死んだかと思ってた」
口から出た言葉は、思ったより掠れていて。
思ったより、涙声だった。
「うん、知ってた。本当はもっと早くきてあげればよかったんだけど…ポートマフィアもなかなかしつこくてね。」
「元ポートマフィアの手前が言えた事か」
「ほんとは日本から出れればよかったんだけど…生憎逃げる事で精一杯でお金が…」
相変わらずのドジに少しだけ頬が緩んだ。
頬にかかる長い黒髪を其奴は…Aは、その髪をそっと細い指で耳にかけた。
憂いを帯びた瞳が伏せられて、表情の一つ一つが絵になるようだ。
「……まあ、わかってると思うけど…
長くはいられないんだよ。私もさ」
苦しげで、儚げで、Aがどれだけの覚悟でここにきたかを改めて思い知らされた。
それでも此奴は俺に会いにきてくれた。
それだけで…充分だ。あとは遠くに逃げてくれれば。2度と会えなくとも、幸せにやってくれれば………。
「………何処か遠くに行こう」
口から出たのは言おうとしていた事とは正反対のものだった。
A驚いたように大きな目で俺を見つめる。
「……え?」
笑い話はどうした。此奴を逃がしてやれればそれでよかったんじゃないのか。
その思考とは別の生き物のように口が言葉を紡ぎ始める。
「2人で、遠くに。」
口から出まかせ…と言うのは少し違うのかもしれない。
これは本当に思っていた事で、此奴と離れたくない気持ちが先走った。
幸せになってほしい、遠くに行ってほしい。離れたくない、手放したくない。
そんな気持ちが交差する。
でももう口から出た言葉は止められなかった。
本当は、とっくに覚悟なんて決まってた。
裏切り者と言われようと、2度とここに戻ってこられなくても構わない。Aがいるのなら。
「海外に…行こう。流石のポートマフィアもそこまでは追いかけてこない」
そして死ぬまで、必ず護ってみせる。
照れ臭くて、その言葉は口元留まる。
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紅月天音(プロフ) - 霊夢どうふさん» ありがとうございます!!更新は遅いですが、お話の質は落とさないようにしていきたいと思います! (2018年7月26日 13時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
霊夢どうふ - 芥川さんが多い上に描写がふつくしすぎる!更新頑張って下さい! (2018年7月26日 1時) (レス) id: 8add41b466 (このIDを非表示/違反報告)
紅月天音(プロフ) - ワッさん+aさん» 素敵な感想をありがとうございます!!今後も期待に応えられるようにお話を作れたらいいなと思いますので、よろしくお願いします! (2018年3月31日 12時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
ワッさん+a(プロフ) - 背景と、主人公の心情の移り変わりがとても細かく書かれていて素敵です!!!! 惚れました!!!!之からも楽しみにしています!!!! 更新頑張って下さい!!! (2018年3月30日 21時) (レス) id: 0cdcac71cf (このIDを非表示/違反報告)
紅月天音(プロフ) - 紫猫日和さん» 大変長らくお待たせいたしました!すみません、芥川sideは難しくて中々筆が進まず…!ようやく完成いたしました!リクエストありがとうございました!またお気軽にどうぞ! (2018年1月24日 17時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅月天音 | 作成日時:2017年10月16日 17時