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暖かく白い湯気の立つ珈琲を盆に乗せ、芥川先輩のいる部屋の扉の前に立ち深く深呼吸をした。
大丈夫大丈夫、と自分に語りかけてそっとドアノブに手を掛けた。
「失礼します。珈琲お持ちしました」
返事はなく、そろそろと部屋に踏み込むと明日の任務の資料を読んでいる芥川先輩が目に入った。
その姿もやはりかっこよくて、つい足の動きを止めた。そんな気持ちを振り払うように大きく首を振ると、静かに芥川先輩の向かいにある机に盆を乗せた。
「珈琲、ここに置いておきますね。」
小声でそう言って、湯気の立つ珈琲をコトリと置く。
真剣な顔で資料に向かう芥川先輩をちらりと見て、盆を持ち立ち上がった。
「…あぁ、」
思わぬ返事にぴくりと肩が揺れる。
芥川先輩は書類を置いて私の置いた珈琲を手に取った。
その時、不意に視線が合う。
意識しなくとも心臓が勝手にどきりと音を立てた。
「………目が、赤い」
「…へ?」
間抜けな声が出て、咄嗟に目元を隠した。
中原幹部の前で情けなく涙を流してしまった事をついつい忘れていたけれど、あれだけ泣けば目も赤くなる。何故鏡を見なかったのだろう…。
今更後悔が募った。
「…すみません…さっきの書類も…私のせいで」
「気をつけます」「頑張りますので」と、言い訳めいた言葉を口にしつつ、気をつけたって失敗があるのだから意味がない。
それにもっと頑張れるなら最初からやれという話だけど、私も元より頑張っているつもりなのだ。
また言う必要のない事までぶっちゃけてしまった。と肩を落とした。
「…では、私はこれで…」
「問題ない。」
失礼して部屋を出ようとすると、芥川先輩がその声を遮った。
また溢れそうになる涙を堪えて、歪む視界で芥川先輩を見つめた。
「書類ミスこそあるものの、作戦立案は大抵悪くない。それに、珈琲も美味い。」
そしてカップに口をつけて机に置くと、立ち上がって私の頭に手を置いた。
…"撫でた"と言うにはあまりに不器用だったけど、確かに先輩は今私を褒めてくれた。
少しザツな撫で方も、髪の毛越しに触れる骨張った体温の低い手も、とても愛おしい。
もしかして、嫌われていないのかも知れない。
必要とされているのかも知れない。
自惚れた考えだけど、少なくとも今の芥川先輩の声や行動からそう感じてしまうのだ。
「っ、ありがとうございます…!」
ああ、生きててよかった。
心がぽかぽかと暖かくなって頬が緩んだ。
*
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紅月天音(プロフ) - 霊夢どうふさん» ありがとうございます!!更新は遅いですが、お話の質は落とさないようにしていきたいと思います! (2018年7月26日 13時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
霊夢どうふ - 芥川さんが多い上に描写がふつくしすぎる!更新頑張って下さい! (2018年7月26日 1時) (レス) id: 8add41b466 (このIDを非表示/違反報告)
紅月天音(プロフ) - ワッさん+aさん» 素敵な感想をありがとうございます!!今後も期待に応えられるようにお話を作れたらいいなと思いますので、よろしくお願いします! (2018年3月31日 12時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
ワッさん+a(プロフ) - 背景と、主人公の心情の移り変わりがとても細かく書かれていて素敵です!!!! 惚れました!!!!之からも楽しみにしています!!!! 更新頑張って下さい!!! (2018年3月30日 21時) (レス) id: 0cdcac71cf (このIDを非表示/違反報告)
紅月天音(プロフ) - 紫猫日和さん» 大変長らくお待たせいたしました!すみません、芥川sideは難しくて中々筆が進まず…!ようやく完成いたしました!リクエストありがとうございました!またお気軽にどうぞ! (2018年1月24日 17時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅月天音 | 作成日時:2017年10月16日 17時