【虹の掛かる街。】芥川龍之介 ページ2
*
「ねえ、芥川くん」
彼は何も言わず、私の方をちらりと見てから視線を元に戻した。
小粒の雨が少しずつ降り注ぎ、傘をさしていない私たちの肩を少しだけ濡らす。
街には少しずつ色とりどりの傘が咲き始めた。
「虹の端を見た事がある?」
どんよりとした空を見てから彼の顔の方に視線を向けた。
芥川くんは眉間に皺を寄せたまま仕方ないと言わんばかりに、ため息交じりで答えた。
「虹そのものを見た事がない」
「じゃあ、虹の端を見ると幸せになれるって言うけれど。何故だと思う?」
芥川くんは眉を顰めた。
「目的が見えん」と、顔でなんとなくわかる。
芥川くんとも長い付き合いだ。
面倒臭がっても、なんとなく私の話を最後まで聞いてくれる事はよく知っている。
「知らぬ。興味もない。」
想定通りの答えに私は少し笑みを零す。
芥川くんは、そんな私の顔を見て一層眉間に皺を寄せた。
水たまりをパシャりと踏む。
服が雨に濡れてしっとりと重たくなってきた頃、私は小さなくしゃみをこぼした。
ちらり、と。芥川くんの視線がこちらに向くのがわかった。
「……一度、雨を凌いでから拠点に戻る」
「…え?でも…」
芥川くんの有無を言わさぬ空気に口を噤む。
しかし彼の表情は少し柔らかく、すぐに『私の為に言ってくれているのだ』と理解した。
手を引かれ、シャッターの降りた店の屋根の下に佇む。
「…………芥川くん?」
屋根の下で雨の降る街を眺めてもなお、繋がれたまま離れようとしない手に疑問を覚えて彼の顔を見た。
芥川くんは何も答えず、視線も動かさず、ただひたすらに街に咲く傘とどんよりとした分厚い雲から零れ落ちる雨だけを見つめていた。
「…………」
何を考えているのかわからないけど、思い上がらないように感情に少しだけ蓋をしつつ、僅かな喜びに頬を緩めた。
少しだけ手をきゅっと握ると、握り返されたような気がして胸の鼓動が早まる。
芥川くんの手は、似合わないくらい暖かくて、見た目通り細かった。
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紅月天音(プロフ) - 霊夢どうふさん» ありがとうございます!!更新は遅いですが、お話の質は落とさないようにしていきたいと思います! (2018年7月26日 13時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
霊夢どうふ - 芥川さんが多い上に描写がふつくしすぎる!更新頑張って下さい! (2018年7月26日 1時) (レス) id: 8add41b466 (このIDを非表示/違反報告)
紅月天音(プロフ) - ワッさん+aさん» 素敵な感想をありがとうございます!!今後も期待に応えられるようにお話を作れたらいいなと思いますので、よろしくお願いします! (2018年3月31日 12時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
ワッさん+a(プロフ) - 背景と、主人公の心情の移り変わりがとても細かく書かれていて素敵です!!!! 惚れました!!!!之からも楽しみにしています!!!! 更新頑張って下さい!!! (2018年3月30日 21時) (レス) id: 0cdcac71cf (このIDを非表示/違反報告)
紅月天音(プロフ) - 紫猫日和さん» 大変長らくお待たせいたしました!すみません、芥川sideは難しくて中々筆が進まず…!ようやく完成いたしました!リクエストありがとうございました!またお気軽にどうぞ! (2018年1月24日 17時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅月天音 | 作成日時:2017年10月16日 17時