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決死の覚悟で飛んだ。峡谷だもの、助かるはずなどなかった。でも、あのまま熊に食い殺されるよりか、ここで凍死してしまう方のが断然良かった。綺麗なままだもの。
「お嬢さん、お嬢さん……起きてください。私は医者です」
・
優しい声色に、目を覚ます。
徐々に周りを捉え始める私の視界。
目の前には甘い匂いの綺麗な女性がいた。
「お医者、さま……?」
「ええ、そうです。私は珠代。山道に倒れていた貴方を見つけて急いで連れてきたのよ」
助けられた……?私はこの女性に、お医者さまに?なんて運がいいのだろう。
でも、
足りないよ、珠代先生
「わたしの、近くに……少年はいませんでしたか」
伏せ目がちの綺麗な女性は、「あまり喜ばしいお話では無いのですが、」と前置きし、つづける。
「結論的に言うと、彼の少年は生きてます。」
「ほんとうか?!」
「ええ、でも……」
手から滑り落ちたのは先程、先生から頂いた白湯。
じんわりと広がる温かさは一瞬で冷たくなってしまう。
今の私と同じように。
きっと、手鏡を見れば今の自分がどんな顔をしているのか分かるのだろう。でも、見なくてもわかってしまうのだ。
サーッと血の気が引く感じ。
全身が硬直してしまうこの感じ。
「彼は、結核を患っています」
“不治の病”
「たすけて、よ」
「お嬢さん、よく聞いてください。助かる方法は一つだけあります」
「なんでもいいから、なんでもいい!だから、お願い。お願いします。彼を助けてください。」
少年の病気は私のせいではない。だが連日の旅路で無理をさせてしまっていたのは事実。悪化させてしまったのは完全に、私のせいだ。
「彼を私と同じ、鬼にするのです。そうすればこの少年の患っている病はたちまち消え失せます。」
「ただ、」
耳を疑った。鬼?なんだそれは。
「人を食べたいという衝動に駆られ、我を忘れてしまうのです。見境なしに人間を襲ってしまう。」
「そして、太陽に嫌われながら永遠という微睡みを生きることになる。」
ああ、なんだ。そうか、そうだったのか。
ならばそれでも良いか。
彼が笑って生きれるのなら。
「お願い、します」
「お嬢さん、いいのですね?」
牢屋などない平屋。彼はきっと起きてすぐに理性を忘れ“食糧”を探すだろう。
もういい、いいんだ。一瞬でも愛されたのだから。
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作者名:ヴィズ | 作成日時:2020年12月18日 23時