７０． ページ21
挑発の意を、隠そうともしていなかった。俺に対して、あざけるような、馬鹿にするような顔をしてそういってくる成瀬に、俺はなにも言葉が出てこない。その代わり、燃えるような衝動が腹の底から一瞬で湧いてきて、それは凶暴なパワーとなって、俺のからだを突き動かした。
「──おいッ！ 下山！」
あわてたようすの小泉が、俺につかみかかってくる。俺は成瀬の胸ぐらをつかんで持ち上げていて、成瀬の首はほとんど絞まっていた。あわてた小泉と、小泉と同じ野球部でタッパのある中田が俺を拘束し、俺は少しだけ平静を取り戻す。気づいたときにはクラスメイトのほとんどが隅に逃げていて、中心にはグルッペンと俺、成瀬、そして俺たちを止めに入った小泉と中田しかいなかった。……完全に、やらかしたってわけだ。
「……先生にはいわないでおいてやるよ」
成瀬がそういい捨てて、その場はひとまずおさまったが、場の雰囲気は最悪だった。成瀬の言葉に、情けなくも安堵している自分が、腹立たしくて仕方がなかった。
＊
俺は自分のことを、それなりに理性的でものごとを冷静に判断できる男だと思っていたのだが、その認識は誤りだったらしい。
朝、成瀬と揉めてからずっと、俺は機嫌が悪いままだった。グルッペンをみても絶対に目は合わないし、成瀬をみても嫌味ったらしい笑顔がかえってきてムカつくし、そのほかのあらゆる細かいことの、なんにでもイライラしてしまうありさまだった。昼休みになってもそんな調子で、俺は小泉と白石の気まずそうな視線を受けながら、もくもくと飯を口に運んでいた。ちなみにグルッペンは相変わらず、昼休みになった瞬間どこかへ消えてしまった。どうせ成瀬とふたりでいるんだろう。
なんせ、つき合っているというんだから。
「……お前さあ……」
「なんだよ？」
辟易したようすの小泉を思わずにらみつけると、小泉は今度はあきれた感じで、「いつまでもキレてんじゃねーよ」といった。小泉のいうことはもっともだ。だが、人間がみんな、なんでもいわれた通りにできるなら、世の中苦労はない。
「……なあ、お前やっぱさ、ほんとにグルッペンとつき合ってなかったのか？」
小泉が、おずおずという感じで俺にそう問うてくる。今さらそんな質問をされるのもしゃくで、俺はますます苛立ちが募る。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 212人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
エス(プロフ) - あわさん» すごくうれしいですありがとうございます……！文だけでなく、grpn以外のキャラクター、オリキャラたちまでお褒めいただいてすごくありがたいです。私が書き出したかった青春の空気感が伝わったようで、すごくうれしいです。ありがとうございます！ (2019年10月31日 20時) (
レス) id: 59009a1e5b (このIDを非表示/違反報告)
エス(プロフ) - 腐女神だぜ☆さん» うれしいご感想ありがとうございます！書きたいものを書きたいように書いた作品でそういっていただけるのはなによりの励みです！読んでくださってありがとうございました！ (2019年10月31日 20時) (レス) id: 59009a1e5b (このIDを非表示/違反報告)
エス(プロフ) - スラカさん» ご感想ありがとうございます！！書き手の私の「grpnかわいい〜」という気持ちがあまさず伝わったようでうれしいです笑 読んでいただいてありがとうございます！ (2019年10月31日 20時) (レス) id: 59009a1e5b (このIDを非表示/違反報告)
エス(プロフ) - るーかさん» ご感想ありがとうございます！そうですね、そういうことへのきっかけにもなれていたらこれ以上はないです！同性愛のテーマも案外普遍的で、どこにでもあるんだよということが伝わっていたらうれしいです。ありがとうございます！ (2019年10月31日 19時) (レス) id: 59009a1e5b (このIDを非表示/違反報告)
エス(プロフ) - 倉の中の石さん» すごくありがたいご感想ありがとうございます！その気持ちが一回ぶん以上の評価として私の胸に届きました……！ありがとうございます！のたうちまわらせることができて狙い通りって感じです……（へへ…）ありがとうございます！ (2019年10月31日 19時) (レス) id: 59009a1e5b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：エス | 作成日時：2019年10月21日 23時
