紫陽花

#9 ページ10

そう思ったきっかけは、冬季休業に入ってすぐ



少し膨らむお腹の、身籠った女性と歩く哲也先生



前に見た女の人だ。奥さん。




二人を見た瞬間私は言葉も出なかった。
思考回路も停止した。




私の中の何かが失われた気がした。

それは、ハッキリとわからなかった。




ただ、言えるのは






もう彼を追えない







その現実を受けとめきれなかったんだ。









聞こう聞こうとは思いつつも日が経ち
もう2月を迎えていた。


聞けなかったあの日から今日まで
聞く機会は何度だってあった。はず。




私は別に、特になんの仕事もないのに生徒会室に入り浸る。



ただ、彼に会いたくて。少しでも一緒にいたくて。



今日は生徒会の日。私はいつも通り一人残って作業をしていた。







すると、入ってくる彼。

今日は、きちんと言うんだ。彼に。






哲也先生 : 何か言いたげだな？なした？





A : 2つ、聞きたいことあるの。良い方と悪い方どっちがいい？




哲也先生 : えー俺が決めんの？んーじゃあ良い方。





てっきり悪い方って言うかと思ったのに、計算ミス。





A : …子供…子供できたの？





彼は一瞬驚いた顔を見せたけど、すぐに眉毛を下げる




哲也先生 : "まだ"いないよ。なんで？




A : …女の…勘？





彼は少し考えてから口を開く。





哲也先生 : お前ならいいか。まだ産まれてないけど一応います。





わかってたはず、わかってたはずなのに衝撃は大きくて。咄嗟に出たのは






A : そっか…ほら、ね？当たった、ね(笑)






必死に笑顔を作って言葉を探した。






哲也先生 : まだ、一部の先生も知らないし、生徒はもちろんお前にしか言ってないから秘密な？






何も知らない彼は私をどんどん傷つける。


私にしか言ってないっていう特別感と
こんなにも悲しい秘密があるのかと



闇は深くなる。



なんとか、その場は耐えて涙は流さない。



はずだった。

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