紫陽花

#8 ページ9

彼の優しさに触れたあの日から


冬季休業を迎え、暫く会えない日が続いた。


生徒会の仕事を終わらせたくて、休み中も学校へ行く。




PC室の鍵を借りるために連絡をする。



ただ、借りるだけ。きっと彼は仕事もあるだろうし時間は取れない。


そう思っていた。





A : 『哲也先生、明日作業したいんですけど、鍵って借りれますか？』





ー今日はすぐに返信が来る




哲也先生 : 『いいよー 何時くらい？』




ー時間聞くの？って事は二人きりの時間できる？

なんて楽しみにはなるものの、実際は緊張がすごい。




A : 講習の間なので、1時半くらいで！




ー了解！明日な！と一言だけ返ってきて、そこで会話は終わった。




ただ、それだけの会話だけ。だけど、私にとっては、明日会う約束。



嬉しいことだった。






翌日いくつか講習を受け、約束の時間。


職員室に行き、彼と目が合う。そして、鍵を貰おうとした。




すると、鍵は渡さずに一緒に歩く廊下。


PC室につくと、彼は隣に座る。







哲也先生 : 冬休みどっかいったの？




急に話しかけられ、思わず手が止まる。




A : そうだなぁ、少し遠出した。先生は？




哲也先生 : 俺？俺は実家に帰ったよ。




ああ、そっか。奥さんの実家も行くって言ってたね。


聞かなきゃよかった、と少し後悔する。




でも、会えなかったこの数日間の互いの出来事を

共有する。普通の先生と生徒ではこんな事滅多にないはず。




本当に嬉しい数十分だった。



でも、今日聞こうと思っていたことは聞けなかった。






それは









『子供、できたの？』








そう聞くことだった。


もう答えはわかっていた。



それを聞くのが怖くて怖くて逃げてしまったんだ。

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