【藤原拓海】月夜の星を追いかけて ２ 【イニD】

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最早慣れたハチロクのナビシート。
今日も無事に勝利を飾り、いつも通りの物腰優しい拓海くん。

頂き物も完食した事だし自我への謝罪の後押しにと２本目を開け終えたのだが。


予想とは反対に自分の感情を制御できず我ながら困り果てていた。


ふわりふわりと靄が脳を侵食し始め、彼を見れば先程の光景がフラッシュバックし感情はジェットコースター。
寧ろ勢いをつけて本音を話せるとまで思っていたのにとことんお酒というのは難しいものである。



「…Aさん、気分悪かったりしますか？」


「…ううん、大丈夫」



不安気な拓海くんに面目ない癖に、笑顔すらできず首を横へ振る。


他の女の子なんか見ないで。私にだけ優しくして。私にだけ、好きって言って。


我儘は増すばかりで、よっぽど拓海くんの方が大人に感じ自己嫌悪が止まらない。
それなのに、すぐに抱きしめて私だけだと言ってほしくてたまらないのだ。


たった、ほんの少しの時間。少し女の子に囲まれて、お話しされて、手を握られたくらいで。


「……。」


私が不機嫌なのを察してか、話しかけてこない拓海くん。
困らせてしまった事も情けなくて、じわりと涙が浮かぶ。

もう正義のヒーローにでも助けてほしい気分だった。敵は100％私自身だが。



「…飲み物呑んでいい？」


「っ、ど、うぞ」



案の定、彼の返事は一瞬の躊躇いが混ざり胸が痛む。

普段の呑み会では序の口レベルの飲酒量なのに思考は段々、良くない方向へ加速する気がする。

一人でも、複数でも、お酒を呑む際の思考は適度に穏やかで、こんな感情は初めてだ。
経験無く押し寄せる鬱にやるせなくなりながらも反動ゆえか手は止まらなくて、飲み干した缶を眺めながら、少し迷って呟いた。


「明日、お休み？」


「休み、です」


「お家、泊らない？」


「……いいんですか」


時折つまる彼の返事に頷いて、今度こそ、話せなかった事も謝って、ちょっと嫉妬しちゃったのって、でも拓海くんの事は信頼してて、私の我儘なだけなのって、並べる言葉を何度も考えていたのに。



「…お待たせしました」


「ううん」


わざわざ助手席のドアを開けてくれる拓海くん。
シートベルトを外しつま先がアスファルトについて、意を決して見上げる。

ごめんって言おう、謝ろう、とひ弱な理性が理想を引っ張り上げたけれど。



「っ、…拓海くんっ、」



私を気遣う視線に色々な感情が押し込めて、取り繕う言葉も忘れ飛びついてしまった。

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