３８話【 見 え な い と い う こ と 】 ページ22
なんとなく、という曖昧な情報だったので、
付喪神というものがなんなのかという説明か
ら始まった。
「付喪神とは、長い間大切に使われていた物に
宿った神様などのことです。大切に使われていなくても
宿ると言われていますが、その場合は私達人間に災いを
もたらすものになるだとか。」
「なるほど……」
結衣さんがぽつりと呟き、興味深そうに何度
もゆっくり頷いていた。私は大切に、丁寧に
使われていたものにのみ宿るとばかり思って
いたので、そうでないものにも宿るというこ
とが驚きだった。
おくもさんは大切に思われていた御守りに宿
ったのだからこんなにも優しいんだろう。も
しそうでなければ御守りなんて捨ててしまう
かもしれないし、第一あの御守り自体を買っ
ていなかったんじゃないか。
おくもさんは、先輩が自身のことを話してい
るともう分かっている。だから私と同じよう
に驚いているし、どこか嬉しそうでもある。
「もう貴方がこの御守りを大切に身に付けて
六年目なんですから、もしかしたら居るのかもしれませんね」
「……そうだと、嬉しいです」
微笑みながら御守りを両手で胸の中心に当て
て居る結衣さんを見て、心が暖まった。けれ
ど同時に暗いところもある。結衣さんがいく
らおくもさんに会いたくても、きっと一生そ
の姿を見ることはできないから。
それに対して、おくもさんは結衣さんの姿が
見えて、けれど自分の声は届かない。例え目
の前に居たとしても。私だったらそんなこと
耐えられないと思う。もしかしたら、いつか
結衣さんもその類いのものが見えるようにな
るかもしれない。
その時がちょうどおくもさんとだけ一緒に居
るときなら嬉しくて仕方がない筈だろう。で
も全く別の、人間にとって害のあるものが見
えるようになる、ということでもあるのだか
らいいことだけではない。私だって初めて見
たときに怖くて力が入らなかった。
見えない人からすれば羨ましいと思えて、見
える人からは見えないのが羨ましいと思うの
が普通なのか。中には見えるお陰で楽しめて
いる人も居るだろうけどそれはあまり多くは
ないんじゃないか。
私の場合ではあるけれど、見てみたいという
気持ちが前は少しあった。なのに、今となれ
ば作り話やテレビでの映像を見るくらいが丁
度いいんじゃないかなんて思ったりしている
のだから。
３９話【 見 え な い と い う こ と �� 】→←３７話【 持 ち 主 �� 】
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作者名：ひいら | 作成日時：2019年1月24日 23時
