【東卍】私の幸せ【三ツ谷隆】

第19話 Fool ページ21

*





真一郎の葬儀はたくさんの人が来た。
兄の人望の良さと言うべきか。

一虎は少年院入りしたが場地は葬儀に出席し私たち佐野家一同の前で謝った。


葬儀はあっという間に終わり、気が抜けるのを感じた。

あの日から私だけでもしっかりしなきゃって自分に言い聞かせていた。私はしっかりできていただろうか。



貴「(本当だったら真一郎のバイク乗ってたのにな…)」



こんなことになるならもっとお願いするべきだった。

真一郎の背中はもうない。
今やもうカラカラになって小さな壷の中だ。



万「A
ハイ、これかぶって」


貴「へ？って、ちょ、」



1人感傷に浸っていると急に後ろから話しかけられ驚く隙もなく、問答無用と言わんばかりに万次郎に手を引かれる。


万次郎に渡されたのはヘルメットだ。

そして連れていかれたそこには真一郎の愛機であるCA250T(バブ)があった。



万「後ろ乗れよ」


貴「…うん」



ゆっくり跨り、万次郎がエンジンをかける。静かな葬儀後の我が家には轟くようにエンジン音が響き渡った。

初っ端からスピードを出す荒々しい運転。
今の私にとってそれぐらいが丁度良かった。



万「───…なぁ、A
病院で"誰も悪くない"って言ったよな？」


貴「うん」


万「それは一虎もか？」


貴「…うん」


万「真一郎を殺した奴だぞ？
それでも悪くないって？」


貴「確かに人殺しはいけないことだよ
けど許す。恨みもしない」


万「なんで？」



バイクの排気音はとても大きいはずなのに不思議とお互いの声ははっきりと聞き取れる。

きっと万次郎は怒ってる。
一虎ともう1人に対して。



貴「私が先に進めないから！
恨み続けたらずっと囚われたままでしょ！」


万「うおッ！急に大きな声出すなよ！」


貴「うるさい！万次郎よく聞きな！！
もう1回言うけどこれは誰のせいでもない！

誰のせいでもないことを自分だけのせいにしないでよ！
背負うんだったら一緒に背負わせろ！

兄妹でしょうが！このバーーーカ！！！」



生きてきた中で1番大きな声出した気がする。
息を整えていると前から笑い声が聞こえた。



万「フハッ、アハハ！」


貴「なに笑ってるのさ！」


万「Aってそんなデカい声出せたんだな！」



顔は見えないが万次郎は笑っている。
釣られて私も笑う。


気分が晴れ、家に帰ると何故か東卍の皆が待ち構えていた。どうやら私と万次郎が逃避行を始めたと思ったらしい。

しっぽり怒られた。





*

第20話 Eyes for eyes→←第18話 False hope

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す