▽ ページ39
空いている部屋を見つけ、他に聞こえないように扉を閉める。
俯いたままの伊野尾くんは、きっと俺が何を言うかわかっているはずだ。その傷の理由も勘づいているとわかっているからフルフルと震えているのだろう。
「伊野尾くん……その傷、誰にやられた？」
「……」
黙ったままの伊野尾くんに、核心をつく。正直俺だってこの予想が外れてほしい。でも、もうそうとしか考えられなかった。
「……その傷、彼氏にやられたんでしょ？」
ビクッと大きく震えた伊野尾くんは、ゆっくりと顔を上げ俺の顔を見ると、もう誤魔化すことはできないと察したのかそれまで閉ざし続けていた口を開いた。
「っ俺が悪いの！やくそく、守れなくて、ちゃんとできなかったから！俺がダメだから……」
絶句した。
否定しなかった上に彼氏をかばう伊野尾くんを見て、悲しくて仕方なかった。許せなかった。伊野尾くんをこんなに追い詰めて洗脳したソイツも、こんなことになるまで何もできなかった俺も。
「何言ってんだよ！伊野尾くんが悪いわけない、どんな理由でも暴力なんて……ダメにきまってんだろ？しかもこんな……」
「っちがう！俺が悪いの！昨日も他の人と話しちゃだめだって言われてたのに破ったから悲しませちゃったの。約束守れない俺が悪いだけ……！」
俺が昨日引き止めて無理に話しかけたから。あのときのおかしな様子とこれまで避けられていた理由に気付く。
「っ……なんでそこまでして彼氏を庇うんだよ！こんなに伊野尾くんのこと傷つけて、縛り付けて……！そんな奴のこと庇うなよ！！」
「ちがうっ！！……痛いことされても、最後は抱きしめてくれるもん……！俺のこと好きだって、大切だからって……。」
「そんなの愛でもなんでもない！！洗脳だよ……！……お願い、目覚まして…………伊野尾くんだってほんとはわかってるんだろ、おかしいって……。」
俺の言葉にハッと目を見開いた伊野尾くんは、体の力が抜けたようにその場にカクンと崩れ落ちた。
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