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一般的な普通の便箋のくせに不釣り合いな真っ赤なインクで殴り書きされたかのような愛を綴ったこの手紙。何枚も何枚もよくも飽きないものだと思うと同時に、お前ごときがAちゃんを語るなとも思う。愛してるだの、ここが好きだのとつらつらと綴られた不気味なソレは彼女の上辺、所謂猫の部分で。お前は知らないんだな、残念可哀想にだなんて誰かも分からないこの手紙の主を勝手に見下す。まあ張り合う相手でもないのだけれど。
当の本人は、自分のことなのにまるで他人事かのように楽観的に話すから思わず怒ってしまいそうになる。別に彼女は悪くないのに。悪いのは完全にこの犯人なのに。
彼女のお腹に回した腕に力を入れて隙間ができないようにこちらに引き寄せる。何も抵抗しないのをいいことにそれをわかった上で駄々をこねる子供かのように肩口に頭を乗せて押し付ける。
『……叶先輩、なんか怒ってますか?それとも拗ねてる?私鈍いので言ってくれなきゃわかんないです』
「別に、君が自分に無頓着すぎることなんてもう分かりきってる事だしなんとも思わないよ」
『叶先輩って案外めんどくさいですよね』
「……いいよめんどくさくても。君にだけだから」
『そういうのは好きな子に言うものですよ、先輩』
子供のような行動を取る僕に子供をあやすかのように頭を撫でるAちゃん。これじゃどっちが年上かわかんないじゃんってしながらもその心地良い感覚に身を委ねた。
君のその優しい目も鈴の音のような声も、ふわふわした髪の毛も透き通るような白い肌も、全部全部僕のものになればいいのに。僕だけに向けられるものになればいいのに。けれど君は高嶺のAちゃんだから、そんなこと許されるはずも叶うはずもない。
だからせめてもの今の僕だけの特権として家に二人きりなのをいいことに猫のように彼女の体にすり寄る。そしたら、そういうこと他の人にしない方がいいですよって言われるから君以外にしないよって言うところころと鈴を転がしたような声で君は笑うんだ。まるで他人事かのように。
その言葉は忠告?それとも牽制?どっちなの?って思いながらもきっと鈍感な君のことだから忠告なんだろうなって思う。君は君自身が思ってるよりもずっと鈍いよ。
「本当に君は超がつくほど鈍感だね」
『えぇ、なんですか急に……笑』
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作者名:月河 あをい | 作成日時:2023年11月23日 14時