矛盾したスキル【転生したらスライムだった件】

序章 ページ1

私の人生に、価値なんてなかった。


母がいなくなってもう半年。

死因はよく知らないが、病死らしい。


唯一の肉親である父は、母がいなくなってから自暴自棄になり酒に溺れ、
私に暴力を振るうようになった。


日に日に増えていく痣。

家族とは呼べない隔絶した距離感。


私が家出をしなかったのは“お父さんの助けになってあげて”という母の言葉があったからに
他ならない。


そうでなければ、私はとっくに家を離れているだろうから―――――.....


　

「―――でさぁー.....聞いてる？」

『うん、聞いてる。』



不機嫌そうに愚痴をこぼす彼女―――幼馴染である結衣の言葉に笑みを浮かべ、速足で道を進む。


今日は、結衣の家で一泊する予定だ。

時刻は夜八時。父親の夜食と酒は準備してあるし、問題ない。


結衣「....まぁそれでー、鈴奈は夜ご飯何が食べたい？

鈴奈の好きなもの作ってあげるよ！ママが！」

『そっか』


結衣「ちょ、突っ込むとこよ！？」

『そだねー』


結衣「もう....！！」

『あっ。待ってよ』


怒って走り出す彼女に、苦笑しつつもついていこうとした時だった。


カラン。


空き缶が、誰かに蹴飛ばされ私の足まで飛んできた。

不快に思い振り向く。そして、すぐに前を向いた。


何だ....！？


男性物のダウンを着た人が、走る私達に全速力で近づいてくる。


フードを被っているせいで顔はわからないが....結衣のストーカーか？


ポケットに入れておいたスマホを取り出し、電話アプリをタッチする。

それと同時に、背後から金属が擦れ合うような耳障りな音が響いた。


...ヤバいかもしれない。

結衣はまだ気づいてないだろう。なら、打てる手は一つだ。


『振り返らずに聞いてくれ、結衣。』

結衣「え？」

『あーーー待て待て待て。振り返るなって。

競争しよう結衣。先に家に着いた方が、今日の一番風呂だ。OK？』


結衣「...言ったね？じゃ、加速ぅぅぅーー！！」


そう言うと、結衣は全速力で家に向かっていった。

よし、馬鹿はこれでいい。



後は――――ってしまった！！



余所見をしたせいで前を見ていなかった私は、道端の石に躓いてしまった。

ぐらりと体が揺れる。



『っ！』



何とか態勢を立て直して後ろを振り返ると、そこにはフードが脱げて顔が露わになったストーカー
の姿があった。

その手には、月光に反射されて煌めくナイフ。


....笑えない冗談はよしてくれよ。


次の瞬間、私の状況は暗転した。

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