【刀剣乱舞】短編詰め (ページ9)

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似た者同士な話(安さに) ページ9

「あ…君か」

私の本丸の安定は、私のことを"主"と呼ばない。
彼も私もそれに触れることはないが、予想はつく。彼の過去の主…沖田総司さんの存在だろう。
きっと彼は私のことを主だと認めていないのだ。彼の中の主はいつまでも沖田さんただ一人なのだと。諦めにも似た感情でいるのに、ただどうしようもなく諦めきれない自分を嘲笑う。未練がましくも彼を見かけるたびに話しかけてしまう。
ああ、人間とはなんと愚かか。
叶いもしない恋心を持ち続けているのに、その恋心のせいで傷つくのだから。
この恋を亡きものに出来ればいいのに、死んでしまえと願えど想いは増すばかり。

いつしか、私は彼に話しかけるのをやめた。

怖気付いたのだ。彼に好かれたいと言う気持ちより、嫌われたくないという気持ちが勝った。ただそれだけ。
話しかける回数が増えれば増えるほど彼の顔つきが変わるのがわかった。最初は普通。中頃から怪訝な表情。最後には難しい顔をして、何かを言いかけ、止める。
彼は私の恋心に気づいているだろう。本丸の皆にも気づかれているのだから、感情を向けられている本刃が気づいていないことはないと思う。その気持ちは叶うことはないと、そう言いかけて止めるのではないだろうか。彼は優しい。沖田さんがそうであったと言われているように。

この恋を乗り越えることは出来ないだろう。

ならば、忘れるしかない。殺す事もできぬ臆病者には思い出さないように、箱に蓋をして鍵をかける。この箱を二度と開けることはないだろう。

臆病で、愚かで、どうしようもなくて、ごめんね。

温かいのに冷たい涙が頬を伝った。