2 ページ10
「あら、A？」
今日は楽しみにしているテレビがある！とお風呂にはいり、意気込んでソファに座ったAだったがきゃいきゃいと楽しげな声がいつの間にか聞こえなくなっていた。
母親と洗い物を済ませ、お茶を飲んでいた俺がソファに近づくとAはクッションを抱き抱えてすやすやと眠っている。
「あー。寝てるわ。あんなにはしゃぐから」
寝かせてくる、といえば母親はごめんねと苦笑する。軽いAの体を抱き上げて、２階のAの部屋へと運んだ。俺の隣にあるAの部屋のベッドへ彼女を寝かせるが、全く起きる気配がない。
「昔っから寝つきはええし、一度寝ると起きへんもんなぁ‥‥」
掛け布団をかけてやり、Aの髪を撫でる。
「‥‥」
妹と家族を天秤にかけるなんてこと俺はできなかった。
子供ながらに、おれのこの気持ちがこの優しい家族を傷つけるものだと悟っていた。わかっているのに。
「すきやで」
唇が触れる。
やはり、この癖が直らない。
★
「シッマなにで抜いてんの？」
翌日の昼休みに屋上で、突然シャオロンがコネシマにそんな話題を投げかけたのが始まりだった。コネシマはリフティングしていた足を止めて、にやりと笑みを浮かべる。
「実はな〜父ちゃんのおたから見つけてん」
「へー。やっぱ本か」
「パソコン勝手に触ったら怒られるし」
「トントンは？」
「え」
抜く、という行為がなにを示すのかは知っていた。
けれど試したことはない。避けていたというより、する機会がなかったというのが正しかった。
「もしかしてしたことないん？」
「えー嘘やろトントン！勿体ないで！俺の父ちゃんの本貸したるわ！」
「俺も兄ちゃんの持ってきたろかー？」
「なに言うてんねん‥‥」
呆れたように目を細めるが、コネシマとシャオロンは本気なようで今度持ってきたるわ！と２人で盛り上がっていた。はいはいとあしらったものの、俺の頭にはしっかりと残ったままなんとなく頭のなかから消えなくなってしまう。
「‥‥」
帰路に着きながら、ぐるぐるそんなことばかり考える。
そういえば今日お母さん、すこし残業するって言ってたな。Aはお友達のお母さんにお願いしてるから、友達と遊んでもいいよって。
「(いやいやいや)」
心のなかでぶんぶん頭を振る。邪念を振り払い、家の鍵を開ければ母親の言うとおり家には誰もいなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 103人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「wrwrd」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
千歳(プロフ) - 櫻さん» ひえーありがとうございます！嬉しいお言葉頂戴してしまい恐縮です‥‥この２人にとっては、どんな結末になっても幸せになれないな、と思い詳しく書けなかった次第です。私のさじ加減で決めつけてしまう気がして‥‥。ありがとうございました！ (2019年9月29日 18時) (
レス) id: 3a13f3dc2e (このIDを非表示/違反報告)
千歳(プロフ) - きのこ(em推し)さん» ああああ楽しんでいただけたのならよかったです‥‥！ほのぼの(？)書く事が多くてこういう系統はあまり書かなかったので‥‥！崇めないでください‥‥！でもありがとうございます‥‥！ (2019年9月29日 18時) (レス) id: 3a13f3dc2e (このIDを非表示/違反報告)
櫻(プロフ) - 心臓がっ！心臓が痛い！！とても素敵なお話に出会えてもう言葉にできません。二人がどうなったのか読者に考えてもらえる構成が素晴らしいと思いました。 (2019年9月29日 14時) (レス) id: 9db9e664f9 (このIDを非表示/違反報告)
きのこ(em推し) - あぁぁっぁぁっぁあ尊いぃぃぃぃぃぃぃtn氏カッコ良過ぎるよぉぉぉ神作者様の千歳様を崇めさせてください。 (2019年9月28日 18時) (レス) id: 4906f728aa (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：千歳 | 作成日時：2019年9月28日 4時
