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そうやで、と俺がうなづけば、Aははっとした顔をして自身のズボンのポケットに手を突っ込む。取り出したのはおはじきだった。
「あ、またおはじきズボンにしまって。お母さんに怒られるで?」
「ちあう!」
Aは手に持ったおはじきを俺に取り上げられると思ったのだろう。嫌!と俺からおはじきを遠ざけて、それをそのまま大先生に手渡した。
「え?くれるん」
「いいよー」
おはじきは、Aの宝物だ。
この間家族でいった水族館でおとうさんに買ってもらったもの。
「えー俺モテモテやわ」
ジリ、と焦げるような、小さな火花が爆ぜるような嫌な感覚はおそろくその時が初めてだ。大先生は呑気にやったーとおはじきを掲げて、ロボロとコネシマに見せている。
「はいはいよかったな」
「Aちゃんかわええな〜。おれのお嫁さんになる?」
「はぁ!?おまえ何言ってんねん!」
俺が激昂しなかったのは、ロボロが素早くそれに突っ込んだからだった。コネシマは呆れた表情で大先生を見ている。
「お嫁さん、わかるんかなこの歳の子って」
「およめさん、とーとのなるんだよー」
「とーと?あ、トントンのこと?あはは、そうなんや。でもなAちゃん」
本当に浅はかだったのだ、この頃の俺は。
なぜかどこかで漠然と、俺は将来Aと結婚するのだと思っていた。だって、俺が世界で一番Aのことが好きなのだから、それは当然だと思っていた。
「トントンはAちゃんのお兄ちゃんやから、お嫁さんにはなれないんやで」
自身の友人の口からそう聞いて初めて、俺はそれにショックを受けたのだ。
そして。
「そうなんだ」
それに、納得したようなAの返事にもひどく胸が痛んだ。
「なーなーそれよりなんかせぇへん?」
「シッマが家からゲーム持ってきたんやて!」
「お、ええよー。トントン、テレビ借りるで?」
「あ、うん‥‥」
Aから大先生はぱっと手を離し、ゲームをしようとはしゃぐコネシマとロボロの間に入っていく。おはじきは、大先生の服のポケットへとしまわれた。
「‥‥」
俺はAのお兄ちゃんだから、Aとは結婚できない。
いくらでもあったのだ、Aから離れるチャンスもタイミングも。ひとつめのタイミングはここだった。ここで俺は理解すべきだった。けれど。
「‥‥Aはおれの隣に座っとき」
俺は、諦めることができなかった。
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千歳(プロフ) - 櫻さん» ひえーありがとうございます!嬉しいお言葉頂戴してしまい恐縮です‥‥この2人にとっては、どんな結末になっても幸せになれないな、と思い詳しく書けなかった次第です。私のさじ加減で決めつけてしまう気がして‥‥。ありがとうございました! (2019年9月29日 18時) (レス) id: 3a13f3dc2e (このIDを非表示/違反報告)
千歳(プロフ) - きのこ(em推し)さん» ああああ楽しんでいただけたのならよかったです‥‥!ほのぼの(?)書く事が多くてこういう系統はあまり書かなかったので‥‥!崇めないでください‥‥!でもありがとうございます‥‥! (2019年9月29日 18時) (レス) id: 3a13f3dc2e (このIDを非表示/違反報告)
櫻(プロフ) - 心臓がっ!心臓が痛い!!とても素敵なお話に出会えてもう言葉にできません。二人がどうなったのか読者に考えてもらえる構成が素晴らしいと思いました。 (2019年9月29日 14時) (レス) id: 9db9e664f9 (このIDを非表示/違反報告)
きのこ(em推し) - あぁぁっぁぁっぁあ尊いぃぃぃぃぃぃぃtn氏カッコ良過ぎるよぉぉぉ神作者様の千歳様を崇めさせてください。 (2019年9月28日 18時) (レス) id: 4906f728aa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千歳 | 作成日時:2019年9月28日 4時