これぞ青春/zm ページ25
夏服も少し肌寒く感じはじめた、今日はまだ九月である。残暑厳しき夏、というよりも秋に近づいている感じがする。
いつもよりもはやめに部活が終わって、少し気分が上がる。練習がハードなだけに、この嬉しさも大きさを増す。
「A！」
校門を過ぎたところで急に名前を呼ばれて振り返ろうとする前に、後ろからぎゅっと抱き締められた。驚いて心臓がばくばくと音を立てるけれど私にこんなことをしてくる人はこの学校で一人しかいない。
「何もするの、ゾム。」
そう迷惑そうに言う私とは反対にとても明るい声で彼は話しかけてくる。
「後ろ姿見えたら抱き締めたくなるやろ？」
「意味わかんない。」
そう返すと彼は更に手に力を込めた。幸いにも周りに人がいる気配はないけれどももうすぐ完全下校時間。大勢の部活生がここを通るはず。しかも、帰宅する先生も車などで通る可能性がある。
しかし、抱き締められて嬉しくないわけではない。彼に愛されているということがわかって顔がにやけそうになる。
いつも私はなかなか素直になれずに甘えてくるゾムを適当にあしらってしまう。
可愛くないこの口は単なる照れ隠しであっても、私は自己嫌悪に陥ってしまう。
「汗臭いから離れて。」
こう言えば彼はどうするだろうか。冷たいなぁ何て言って離さないのだろうか。けれども私の予想は大きくはずれた。
「え、まじか。」
ぱっ、と私から離れてくんくんと自分の匂いをかいだ。犬みたい、なんて感想は置いておいて。
「ゾムもそういうの気にするんだ。」
男の子なんだし、てっきり気にしないと思っていた。あぁ、でも思春期は存外気にするものかもしれない。というより普通にくさいと言われるのは嫌か。
一人で納得して、ゾムをみやる。
「……そりゃ、彼女にくさい言われたら気にするわ。」
ちょっと拗ねた顔で言うものだからなんだか可愛いなと思って笑ってしまった。
「嘘だよ。ゾムの匂いだから、好き。」
好き、と伝えるのをいつも躊躇ってしまう私だけれどなんだか今日はすんなりと言えた。
私の言葉に目をまんまるとさせて、なっ、なっ！？なんて動揺するゾムをみるのは久しぶりで。
「照れてるの？顔赤いよ？」
ちょっとからかってみれば、彼は口元を抑えた。はぁー、と深い溜め息をついて、私の手を握った。
「あの、ゾム……？」
「帰るで。」
「う、うん？」
どうしようもないくらい、今、私は幸せだ。
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作者名：大佐 | 作者ホームページ：
作成日時：2017年2月5日 15時
