子供/grpn ページ21
真っ白な空間に高嶺の花だと言わんばかりに黒く染められたドレスを身に纏い佇む１人の女がいた。
首にはチョーカーが付いており、怪しげな光が点滅していた。
ｶﾞﾁｬﾘ、と扉が開いた。
女は虚ろな目を、音のした方へ向けた。
視線の先にいるのは男だった。彼が扉を開いたことは一目瞭然だ。
「帰ったぞ。……今日は薔薇の花束を持ってきた。」
男はどこか嬉しそうに目を細めて無表情な女にそばに寄った。
彼は容姿端麗だった。全ての人間を魅了できるほど。しかし、それだけではない。彼の放つ声は囁かれれば何人もの女が落ちるほどで。
そしてなにより、彼は頭脳明晰で、何万の人間を従えられるほどの巧みな言葉。
彼に興味を示すこともなく、女は薔薇の花束を持ち、片膝をついた彼を見下ろした。
その目はまるで鏡のようだった。
感情などどこにも見当たらない。
「……気に入らなかったか？」
男は肩を落として軽くため息をついた。
また来る、そう言って男は部屋を出てしまった。
「……貴方は、何がしたいの。」
女は彼が出ていった方を見つめていた。
次の日も男は部屋を訪れた。今度は髪飾りだった。光輝く金をベースに宝石があしらわれたもの。見るからに相当な価値のものだとわかる。
しかしそれにも、女は興味を示さなかった。
男は下手な作り笑いをして、また来る、と昨日と変わらぬ言葉を言い、部屋を出た。
扉を閉めた後、男はその場に座り込んだ。片手で顔を覆い、顔を歪めた。
「……一体何をやれば、お前は笑うんだ………。」
それは彼にとってはとても珍しい弱音だった。絞り出されたような言葉は、誰もいない廊下に響いた。
男は次の日もその次の日もそしてそのまた次の日も女のもとへ通い続けた。彼女の部屋には使われない装飾品が増えていった。
部屋はキラキラと美しいものに飾られた。しかし彼女の瞳は一向に光を宿さない。
そんな彼女の瞳を見て、男は堪えきれずに、言葉を放った。
「っお前は！……なぜ、笑わない……。」
女に頬に手をあてて、苦しそうに呟いた。男の瞳は炎のように燃えて、怒りをちらつかせていた。
女は表情をかえず彼の手の上に自分の手を重ねた。ピクリ、と男の手が動いた。
「……どうして、笑って欲しいの？」
鈴の音のような愛らしい声で言われた言葉は深く男の心臓を抉った。
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作者名：大佐 | 作者ホームページ：
作成日時：2017年2月5日 15時
