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そうそう、それで――俺は翌月のホワイトデーで、きちんとお返しをしたんだ。告白というオプションを付けて。

その日はちょうど、中学の卒業式の日だった。
午前中に卒業式をして、午後は私服で集まってクラスで焼肉。なぜかその後はすぐ近くの公園で、皆挙って童心に返って、鬼ごっこやら隠れんぼやらをして遊んだ。
お開きになったのは夜の9時。そろそろ帰ろうと誰かが言い出したんだろうと思う。ぞろぞろと集団になって公園を出ていくのに紛れて、俺はAの腕を引いて彼女を公園に引き止めたのだ。


「花巻?」


去っていくクラスメイトは、どさくさに紛れて輪を抜けた俺達には気付かなかったらしかった。真っ暗な公園の薄暗い照明の下で、びっくりしたような表情を浮かべっぱなしのAとふたり、見つめあった。


「……柄井」
「はい」
「これ、バレンタインのお返し」


ずっとリュックの中に忍ばせていた小さな包みを取り出し、彼女に手渡す。中身は、俺がなけなしのセンスで選んだ、彼女によく似合いそうな小さな星をあしらったゴールドヘアピン、とかいうやつ。Aは少し躊躇いがちに受け取って、小さな声でありがとう、と告げた。


「うれしい、えへへ」


ぎゅっと包みを両手で握って微笑んだAの笑顔を、薄暗い照明が淡く照らしていたシーンは、まるで映画のワンシーンを切り取ったかのように幻想的で、今でも鮮烈に記憶の中で輝いていた。
あの微笑に背中を押されて、行ける気がして。半ば勢いだったはず、彼女の目を見つめて、俺は一息で叫ぶように言ったんだ。


「あのさ、俺、柄井が好き!」
「……えっ、」


らしくない告白だったと思う。それくらい中坊の俺は必死だった。Aも事態が飲み込めていないような様子で黙り込んでいた。それからAの次の言葉までの間は、体感時間ではめちゃくちゃ長かった。


「びっくりした、」


2、3度瞬きを繰り返し、一拍置いて。


「……けど、わたしも花巻のこと好きだよ」


嬉しそうに笑ったAは、お世辞抜きで本当に可愛かった。
夢みたい、って放心しかけた彼女の頬を軽く引っ張り、お返しに引っ張られて。ちょっと痛かったけど、幸せな痛み。それからAの家まで彼女を送る間、ずっとお互い頬は緩んでいた。
地に足がつかないようなふわふわした気分で他愛のない話をしながら、Aの隣を歩いていることに心を踊らせた、付き合い始めの日。

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作者名:ひな | 作者ホームページ:https://twitter.com/pp__synd  
作成日時:2017年3月14日 23時

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