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七十四 ページ9

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千影が怪我を負ってから数日。
通報を受け現場に急行した先には、顔を歪め腕を押さえる彼女がいた。
そのまま病院へと運ばれ、Aは付き添えぬまま事件の調査に明け暮れていた。



(千影…大丈夫かな)



部屋に帰れば、おかえりという声もなくあまりに静かすぎた。
当たり前のように隣にいた彼女が急に消えてしまったような気がして、胸がきゅっと締め付けられる。



「A。千影のとこ行ってきてくれるか」



近藤はそう言い、小包を手渡した。
中には千影の好きな菓子。
男は少し照れたように笑った。

病院に着き、ふうと息を吸う。
近藤が言うには、千影の手術は成功し今は療養に勤むとのことだった。
病室に近づいた時、




「だから私はあれほどいかんと!!」




廊下まで響く怒号。
ちらりと中を覗けば、ベッドに横たわった千影が恰幅のいい男に怒鳴られている。
身につけている服は高価そうだ。



「これは偶々なの!いつも怪我してる訳じゃないから!」




「五月蝿い!私に指図するな!」




言い返す彼女をぴしゃりと言い包める。
いつも強気な千影は居らず、困ったように眉を下げていた。
それが見ていられず、




「千影来たよー……あっ、来客でしたか。ごめんなさい」




扉を開けて割って入る。
閉めて出ようとすれば、ずかずかと男は歩いてきて挨拶もなしに出て行ってしまう。
千影と顔を見合わせ、へらりと笑う。



「ごめん、助かった」



「いいのいいの。どう?入院生活は」



「もう退屈。早く屯所に帰りたーい」




彼女は肩を上げ、一息吐く。
近藤から預かった小包を渡せば、目をきらきらとさせながら中身をベッドに広げた。
そして、不意に真面目な顔でAを見る。



「…聞かないんだ」



「何が?」



「さっきのこと」




そう言われ、思わず黙り込む。
目線を逸らせば、千影は溜息をついてAの頬に触れた。




「相変わらず優しいね、Aは」




その丸い瞳に薄らと雫が溜まっていく。
それが移ったように、Aの瞳も潤む。
そんなAの姿を見て、彼女はけらけらと笑った。



「何でAが泣くのよ」





「分かんない。…でも、千影が辛そうだったから、つい」




その言葉を皮切りに、千影の雫はぽたぽたと落ち始めた。


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作者名:Nattu | 作成日時:2022年5月10日 23時

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