八十九 ページ24
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「総悟!!てめえ!!」
怒鳴る声が近づいてきて、ばれてしまったかとわざと寝息を立てる。
常套句に土方は構わず、沖田を叩き起こした。
「余計なことぺらぺら喋った上に、何が見合いだ?ああ?」
額に筋を浮かべて怒る上司はあまりに滑稽だった。
普段ならば余計な事を言うなと釘を刺すだけで、怒鳴りつけたりはしない。
全てはAに関わっているが故なのだ。
「へえへえ。すんませーん」
反省一つもしていない返事に、土方は呆れたように溜息をついた。
「…で、お前はAに惚れてんのか?」
「はい?」
思ってもみないに問いかけに、顔を顰めた。
土方は相変わらずの仏頂面でこちらを見ている。
その言葉に嘘はなさそうだ。
(誰がアンタの惚れ込んでる女に、わざわざ手を出すんでぃ)
そんなリスキーな恋愛も面白そうだとも思うが、噂が立つほどの二人の間を裂くほど野暮ではない。
「墓参り行って、喫茶店に行ったんだろう」
考えが古い男だと思った。
一日出掛けてお茶をしたからといって、恋愛的好意に繋がるのはあまりに短絡的だ。
図らずも、Aが真選組の紅一点になってしまったのはほかでもない。
それに入隊して一年は過ぎ、周りの隊士との交友関係は友好だ。
色恋沙汰に疎い男には、彼女の周囲が気になるのだろう。
「ったく、鬼の副長というお方が女一人に振り回されるたぁね」
「別にそういう訳じゃ…話を逸らすんじゃねえよ」
『質問に答えて貰えますか』
つい最近、似たような事を女が言っていたことを思い出し、笑いが込み上げる。
恋人や夫婦は口癖や言葉が似てくるとよく聞くが、これがその例なのかと益々つぼに入る。
「あーはいはい。Aは俺の玩具くらいにしか思ってないですぜ」
面倒になって投槍に応えれば、土方は煙草に火をつけた。
不意に、最近吸う本数が少し減っていたのに気がついた。
それもA達が来てからだ。
「受動喫煙、気にしてるんですかぃ」
「…るせえよ」
つけたばかりの火を揉み消して、その場を立ち去る。
その背中に、
「煙草より色恋のが依存性高いんで、お気をつけて」
嫌味ったらしく言えば、刃をこちらに向けて走ってきて。
(あーあ。折角、近づくきっかけを作ってやったのに)
綱渡りのように慎重な二人に、次はどんな事を仕掛けてやろうかとまた悪巧みを始めた。
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作者名:Nattu | 作成日時:2022年5月10日 23時