八十二.悪魔の手助け編 ページ17
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千影がいなくなっても屯所の中や江戸の街に大きな変化はなかった。
毎日変わらず、時は過ぎていく。
「A、交代だ」
「お疲れ様です。引継ぎお願いします」
次の番の隊士に用件を伝え、自室に戻る。
扉を開ければ、変わらず片側だけががらんとしている。
あれから数日経っているというのにまだ慣れず、一人でこの部屋にいると彼女がいない現実を突きつけられる。
(…駄目だ。もう前を向かなきゃ)
急いでジャケットを脱ぎ私服に着替える。
その足で逃げるようにして部屋を出、食堂へ辿り着く。
交代勤務で急いで食事をするだけでなく、気持ち的にも食べた気がしておらず、部屋内の旨そうな匂いに腹が鳴った。
精神的にも疲弊した身体は栄養をより欲しているように思えた。
「A、お疲れさん」
「今日明けだっけ?」
トレーニング帰りであろう仲間が話しかけてくる。
冷蔵庫にある栄養ドリンクを手に取り、勢いよく飲んだ。
「はい。お二人とも今日はお休みですよね」
「おうよ。だから一走りしてきたって訳だ」
男は自信満々に答える。
彼らはそのままだらだらと話しかけてくる。
(味噌汁冷めちゃうよ…)
先輩の手前、箸をつけるのには気が引ける。
さりげなく体制を飯に向けるも、お喋りに夢中だ。
「おい、てめえら。人の食事中を邪魔してんじゃねえよ」
だるそうな声で沖田は一喝した。
それに、彼らは小さく悲鳴を上げいそいそと出て行く。
沖田は溜息一つついて、冷蔵庫からアイスを取り出した。
「すみません、助かりました」
「食いてえって言えばいいのに。ほんと、真面目なやつ」
そのまま回り込んで前に座った。
男が爽やかな色のアイスを咥えるのを見て、Aも飯に箸をつけた。
空調の音と皿と皿が合わさる音だけが聞こえる。
互いに黙ったまま食事を進めていく。
Aが食事を終えようとしたタイミングで、沖田も立ち上がりまた冷蔵庫を開ける。
どうやら一つだけでは物足りなかったらしい。
手を合わせ、食器を持っていこうとした時、
「ん」
目の前に彼が咥えた物と同じ物が差し出される。
礼を言い、同じように口に咥える。
すると、沖田はAの皿を勝手に回収して、
「俺の金で買ったもんに手をつけたんでぃ。
今日は一日俺に付き合って貰いやすぜ」
嵌められたと思った頃には、彼は楽しそうにこちらを見ていた。
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作者名:Nattu | 作成日時:2022年5月10日 23時