七十九 ページ14
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Aは立ち上がり、松平に食ってかかった。
「貴方は千影の何を知ってるんですか!!!
彼女なりに努力してたことも、悩んでいたことも、
何も……何も、知らない癖に!!!」
「A!落ち着け!!」
慌てて三人でAを床に押さえつける。
わざと煽るような発言をした松平は踏ん反り返り、旨そうに煙草の煙を吐いている。
覆い被さる男達の下で、女はまた襲い掛かろうと言わんばかりに松平を睨んでいる。
「総悟」
その一声に、沖田はAをひょいと抱え上げる。
案の定彼女は暴れるも、彼はどこ吹く風だ。
そのまま扉を閉め、彼女を自室へと連れて行く。
「沖田さん!離して下さい!私は、まだ話が」
「へぇへぇ。俺が聞いてやっから」
騒ぐ声は次第に小さくなる。
土方はほっとしたように溜息を一つ溢した。
「今からだぞ。大変なのは」
松平はまた煙草に火をつける。
そして溜息と一緒に煙を吐く。
「とっつぁん。Aであんなこと言わなくても」
「本当のことを言って何が悪いんだあ」
真選組に入隊希望を出してきた女達は数知れない。
腕の立つ者、頭脳明晰な者、秀でた才能を持つ者は多くいた。
その中で選ばれたのが、Aと千影。
彼女達は特別剣術に優れている訳でもなく、頭が良い訳ではない。
真選組という組織に入れるにあたり、真選組の礼儀や規律を染み付かせるには、発展途上なくらいがちょうどよかった。
「家柄ってのは意外と大事なもんだな」
そこで試験的に導入されたのが、家庭環境である。
「とっつぁん…お言葉ですが、家柄はあまり関係ないかと」
「まあ、いい検討材料にはなったが」
「千影は残念だったが…
彼女は良い人材だった。辞めるには惜しかったな」
土方はそうぽつりと呟いた。
Aに比べ考えは幼く、少々生意気と言っても過言ではない小娘だった。
しかし、Aと切磋琢磨し、彼女はみるみる才覚を見せていた。
間違いなく、Aと共に今の真選組に必要な存在になっていた。
そして、Aにとって、ここにいる誰よりも大切な存在だったのだ。
「トシ。Aの所に行ってやれ」
俯く男に命令を下す。
彼は珍しく素直に応じ、部屋を出ていく。
「…なるほど。俺が暫く来ないうちに、そういう進展もあっているなんてな」
「とっつぁん。
千影やAが変化するように、俺達にも多少の変化があるんだよ」
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作者名:Nattu | 作成日時:2022年5月10日 23時