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六十七 ページ2

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「そうですか…分かりました。ありがとうございます」



そう言って彼女は電話を切った。
土方を見て首を横に振る。
これで、近くの宿泊施設はあと一棟だ。



「やっぱり駄目ですね。ライブもあるし、この雨で私達みたいに急遽泊まる人もいるし」



「車中泊にしても、ずっとエンジンかける訳にもいかねえしな…」



まだ肌寒い季節だ。
布団も積んでいない車内で寝るには、風邪を引いてしまいそうだ。

Aは意を決したようにボタンを押す。
携帯電話を耳に当てながら、神妙な面持ちだ。




「はい…ええ…はい」




反応を見るに、どうやら外れのようだ。
頼みの綱もどうにもならなかったらしい。

しかし、




「えっ…あっ…いや、でも」




女は不意に声を上げる。
黒目をうろうろとさせながら、手持ち無沙汰な片手で髪を掻いた。
それを横目で見ながら、電話を切るのを待つ。
雨はまだ降り止みそうにない。



「すみません、分かりました。はい、ありがとうございました」



「その様子じゃ、駄目だったようだな」



「まあ、はい」



歯切れの悪い返事だ。
視線を落とし何かを言い迷っている。
この女のいつもの癖だ。




「なんだ、言え」




強く言えば、Aは少し怯えたような顔でこちらを見た。
捨てられた子犬のような不安げな目をしている。



「泊まる当て…あるのはあります。さっきのホテルの方から、紹介してもらいました」



「そこに泊まればいいじゃねえか」



「…簡単に言いますね、本当に」




Aは眉間に皺を寄せた。


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話を聞いて、まずやめようという気持ちが沸いた。
Aが戸惑ったのも尚更だと納得した。
しかし、この雨と帰ろうにも帰れない状況。
背に腹はかえられない状態だった。

少し薄暗い部屋にシャワーの音が響く。
気分が落ち着かず、机上にある紙を手に取るも内容を見てすぐに裏返す。



(よりによって何でこいつと)



ベッドの端に腰を下ろし、頭を掻く。

静かに風呂場の扉が開く音がして、髪を拭きながら彼女は恐る恐る現れる。




「すみません、先に。ありがとうございます」




火照った頬と丈の長いバスローブが妙にリアルで、



「気にすんな、俺も入る」



入れ替わるようにして風呂場に足を踏み入れる。

無駄に広い浴室にバスタブ。
勢いよく、シャワーの蛇口を捻り、



(これはただの出張。たまたまここに泊まっただけで)




頭の中で何度も言い聞かせながら、髪を濡らした。


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作者名:Nattu | 作成日時:2022年5月10日 23時

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