story18 ページ27
夢主side
なにも、わからない。
わかっているのは、Aはもういない、ということだけだ。
うずくまって玄関の外を見ないようにする。
ずっと感じていた、兄さんに対しての怒り。
そんなものは、もうなくなってしまった。
「……いや、最初から、そんなもの感じていなかったのかもね」
初めてAに会ったときにはびっくりした。
自分にそっくりな容姿に声。けれど性格は私と正反対の、明るくて優しい子だった。
同じ顔なのにこうも違うのか、と衝撃を受けたのを覚えている。
今まで誰かを信じることなんてなかったのに、信じてしまったのは、Aの才能だろうか。
けれど、孤児院の管理人である
“ゴミ捨て場”に大人はいない。大人になっても“ゴミ捨て場”の孤児を雇う奇特な会社はないから、大人になったら死ぬ以外の道は残されていない。
そんなことを話した時に、私が助けてあげる、と言ってくれたのはAだった。
初めて私を受け入れてくれた大切な親友。
人とかかわることのなかった私は、Aが世界のすべてだった。
「……なのに、さぁ。勝手に死ぬとか……」
嗚咽が私の口からあふれ出る。
俯けば、雫が私の顔から落下した。
違う、私はAの死を悼むことができるようなご立派な人間じゃない。
相川家に引き取られてから聞いた。
Aが死んでしまったのは、兄である相川真冬をかばってのこと。
そして、相川真冬が道路に飛び出たのはAとの喧嘩のせい。―――…その原因は、私。
ずっと相川真冬が悪いんだと思い続けていた。
相川真冬がいなければAは生きていたんだと。Aが死んだのは、相川真冬のせいだと。
「……本当は私のせい、だよね」
本来ならばそこに在るはずのなかった命。
かつて“ゴミ捨て場”にいた人間の中で、生きているのは恐らく私だけだろう。
だって私たちは“いらないもの”として扱われていたのだから。
本来ならば、いるはずのなかった私がいなければ、Aが兄と喧嘩をすることもなかった。
喧嘩さえ、起きなければ、Aが死ぬことはなかった。
―――…Aを殺したのは、私だ。
ピンポン、とその場に不釣り合いな底抜けに明るい音が聞こえた。
無視していると、もう一回。
また無視すると、更に一回、二回、三回。
「……うっるさ」
涙をぬぐい、扉の鍵を開けた。
377人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
千々(プロフ) - くまくまちゃんさん» 最初のころの作品で語彙力ドバドバ崩壊なのにそういっていただけるなんて嬉しいです……! コメントありがとうございました! (2020年11月1日 14時) (レス) id: 4401622583 (このIDを非表示/違反報告)
くまくまちゃん(プロフ) - すごいふかいなぁ。神かな?←面白かったです! (2020年9月19日 9時) (レス) id: 8a3f9ddf1c (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - ひきねこさん» こちらにもコメントありがとうございますっっ! たくさんのコメントは本当にモチベに繋がるので嬉しいです……! 神作と思っていただけるのはRONONさんのネタが素晴らしいからですね、上手くネタを生かせたか心配ですけど、そう言っていただけて良かったです! (2020年8月18日 22時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
ひきねこ - こんにちは 新しい方のから読みに来ましたよ なんですか!?作者様は神作しか書けないんですか!?コホン…凄く良かったです 他のも読みにいきます (2020年8月18日 19時) (レス) id: b9ac26b4ea (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - #よにん。@変人系カップル&シトラ教教組さん» これからも読者さんの期待に応えられるように、誠心誠意頑張らせていただきます……! ありがとうございました! (2020年8月5日 15時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年5月10日 14時