染まる ページ7
冷たい風が吹き抜ける。
季節は流れ、街を歩く人々の装いも暖かそうなものに変わり始めてきた。
街はかぼちゃや魔女などをモチーフにしたもので溢れ、視界に入った店のショーウィンドウにはそういった類の小物や置物が飾られていた。
季節は秋である。
秋といえば、と問われれば読書の秋、運動の秋、芸術の秋などが浮かぶのだが、
隣を歩くこの少女にはそれよりもこの言葉がお似合いだろう。
「あっ、ほら見てゆりん!」
「もう、次はなに……」
「たい焼き!季節限定かぼちゃ餡だって!美味しそう!」
「さっき散々食べたじゃん」
「甘いものは別腹なの!」
「あーもー……」
食欲の秋。これが彼女にはぴったりだ。
ゆるく巻かれた髪が歩く度にふわふわと揺れる。
日本の女性の平均身長よりも低い彼女は誰の目から見ても小さくて可愛い女の子、であるのだろう。
しかし本人は気にしているようで、夏でも冬でもヒールの高い靴を履く。そのせいで何度も靴擦れをしたのに懲りていないらしい。
白が好きな彼女は部屋も服も白系統のもので纏めるのが好きなようだ。
あとはパステルカラーとか、見ていて明るい淡い色を好む。
僕が言うのもなんだが、隣を歩く彼女は黙っていれば可愛い女の子である。それこそ童話に出てくるお姫様のような。
――……そう、黙っていれば。
「ほら」
「ありがと!」
「ほんっとよく食べるねAは……」
「美味しいものは食べないと損だよ」
「どの口がそれ言ってるの?
食べたいなら自分で買ってきなよ」
「ごめんってば、怒らないでよ。
いくらだった?」
「税込み320円」
「はーい」
「はい確かに、受け取りました」
彼女は食い意地が張っている。
今だってそうだ。
お昼には大盛りのラーメンを注文した上に替え玉まで頼み、更にたい焼きまで食べるとは。
一体どういう胃袋をしているのか甚だ疑問である。
僕はAの食いっぷりで既にお腹がいっぱいだ。
「美味しい!」
「よく入るよね……」
「ゆりんは食が細すぎるんじゃない?」
「どう考えてもAが大食いなだけだよ」
「あっ、ひどーい。女の子にそういうこと言うんだ」
「女……?お前が……?」
「ちょっと、それどういう意味!」
膨らんだAの頬を片手で押し潰す。
ぶぅ、と言って顔が萎んだ。もう少し可愛い声を出してほしい。
ちなみに、これまで彼女彼女と言ってはいるが、別に僕達は恋人同士ではない。
「そのままの意味」
「もう!」
……ただの、幼馴染である。
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瑠璃?(プロフ) - 更新いつも楽しみにしてます。 とても素敵な作品ばかりで尊敬します……! 春音さんのお話に出てきた先輩は弟の姉さんでしょうか? 合ってたらお友達d)) ……これから更新されるお話も楽しみにしてます! (2016年10月29日 9時) (レス) id: 72272aaac8 (このIDを非表示/違反報告)
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