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しろひつじ ページ5



「まあ良いけどね。意外と可愛いよ演じてるきみ」
「さらりと言ういーくんが非常にこわい。一昨年まではそんなことひとつもいわない可憐なそうしょくけいだんしだったのに。あとお世辞はいいよ」
「そんなこと誰が決めたの?」
「ねえ微妙に感染してないかなあ頭が痛い」


 ハロウィン翌日、三人でわちゃわちゃと焼き上げたかぼちゃ風味の砂糖控えめクッキーを、いーくんが作ったホットミルクを飲みながらつまむ。アイが虚ろな瞳をしつつも勝手にセレクトしたタイトルのわからない洋楽が、会話の中では耳を澄まさないとはっきりとは聞こえない音量で流れている。


「ねえ台本の中の私、ラムがいーくんにお菓子をあげたらいーくんはどうするの」
「これじゃ足りない、っていうの」
「ああ、そう」


 突っ伏しているせいでもごもごしている言葉にいいかげんな相槌を打ちつつまだ熱いホットミルクを啜った。アイは散々はしゃいでクッキーを焼き上げたのにまだそれに手を伸ばしていないしホットミルクに口をつけてもいない。クッキーに、せっかくだから林檎を入れようと喚いていた元気はどこに飛ばされたんだろう。まあ私といーくんのテンションも異常だったのだが。今は昨日のことについて反省しているんだろう、もう慣れた。いつものようにクッキー入りのタッパーでこつんと頭をつつく。貸して貸してといーくんが言うから渡したら、こつんこつんーと口に出しながらアイをつついて遊んでいる。完全におもちゃだ。がたんごとんーと電車を模したプラスチックを延々と転がす小さなこどもみたいでかわいい。


「病気だよなあ治らないのかなあたすけてかみさま」
「あっ起きた。ほらよクッキー」
「だめだよいーくん、まだ憑物がいる」
「あ。わすれてた」


 アイはふらふらと部屋から出て行った。白を基調としたシンプルなトップスと古着屋で嬉しそうな顔をして買っていたダメージジーンズ、それから迷彩柄のミニバッグを身に着けて、或いは持って。バッグに絡んでちぐはぐな雰囲気を醸し出している純白のリボンが、不安定にひらひらと棚引いていた。まあ、明日までには戻ってくるだろう。幾度も繰り返しているのだ、ハロウィンとその翌日の流れは全てが頭の中で台本化されている。音響を調整するみたいに、スポットライトを操作するみたいに、照明の色を変えるみたいに、大道具小道具を動かすみたいに。それから台詞を頭に叩き込んで登場人物に憑依することみたいに、すっかりなじんでしまった。

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瑠璃?(プロフ) - 更新いつも楽しみにしてます。 とても素敵な作品ばかりで尊敬します……!  春音さんのお話に出てきた先輩は弟の姉さんでしょうか? 合ってたらお友達d)) ……これから更新されるお話も楽しみにしてます! (2016年10月29日 9時) (レス) id: 72272aaac8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:参加者の皆様 | 作者ホームページ:ありません  
作成日時:2016年10月19日 13時

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