千夜 ページ35
「助ける、って何を……」
「私ね、人間になりたいの」
「人間に、なりたい？」
「そう。人間になりたい」
達哉は訳が分からない、と首を振った。どうして人間になんてなりたいんだ、と。こんな醜いものに、どうしてなりたがるんだ、と。
「吸血鬼だからって、俺は別に気にしないから」
そう言って抱き締めていた手を、私の頭に置いた。動かした時に鼻孔をくすぐった、達哉の優しい香り。達哉は嘘つきね。人間はこんなにも綺麗じゃない。
私達吸血鬼は、人の血を吸わなければ生きていけない。本当は一番言いたくなかった達哉に明かしてまで、私は、人間になりたいと思った。もう懲り懲りなのだ。
媚びを売り、すり寄ってきた者の血を吸い、何とか生き長らえている現状が。もうやめにしたかった。苦しかった。
そんな血は、一つも美味しくないのだ。
「もう嫌なの、吐きそうで、気持ち悪くて、死にたくなる」
「A、」
「ねぇ達哉お願い、助けて」
達哉。そう呼ぶ度にキツく抱き締められてゆく。どんどん近付く顔に自然と上がる心拍数。馬鹿みたいだ、って空笑いしながらも、甘えておくことにする。
達哉は私の肩に顔を埋め、少し間を開けて言った。寂しそうな、悲しそうな、具体的に言い表せない儚い声音で。
「なぁ、Aは人間になって何がしたい」
「何って……達哉と同じ様に生きて、達哉と同じ様に歳を取って、達哉と一緒に逝きたい」
「それって、」
「嫌だよね、吸血鬼と一緒に生きるなんて、やっぱり無理だよね」
普段は人間に扮している吸血鬼でも、人間の方が何倍も早く歳を取り、早く死んでいってしまう。
それが嫌で、人間と関わりを持とうとしない吸血鬼が殆どだ。私もそうだった。
しかし今、私には大切な人が出来てしまった。何百年とひっそり生きていた中で、唯一この人だけは愛そうと。例え達哉が先に逝こうと、私は達哉だけを愛していようと思った。
それでも、やはり欲は出てしまうもので。
「ねぇ達哉、無理はしなくていいから、嫌だったら嫌で構わないから、」
「……嫌だっていったら？」
「そうね、この街を離れて、また何百年と時を浪費するわ」
「そんなの、辛くないのか」
「もう慣れたわよ」
やだ、嘘。
ふと肩に濡れた感覚。もしかして、達哉、泣いてるの？
話す事を止め、耳を澄ます。確かに啜り泣く、達哉の声がする。その涙は一体誰に大してなの。
自惚れても、構わないの──？
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瑠璃?(プロフ) - 更新いつも楽しみにしてます。 とても素敵な作品ばかりで尊敬します……！ 春音さんのお話に出てきた先輩は弟の姉さんでしょうか？ 合ってたらお友達d)) ……これから更新されるお話も楽しみにしてます！ (2016年10月29日 9時) (
レス) id: 72272aaac8 (このIDを非表示/違反報告)
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