人間に成りたい ページ34
騒がしい街を見下ろし、廃墟の屋上に一人佇む。寒くなりだしたこの頃。冷たい夜風にたなびく自分の髪が鬱陶しくって、手に持っていたゴムで一つに縛った。
きらり、私の歯が空を切ると共に、屋上の戸が開く。誰がやってきたのかは分かっていた。なんせこの廃墟に彼を呼びつけたのは私なのだから。
「A、ここは一体なんなんだよ……」
「やだ、そんな怖い目をしなくてもいいじゃない」
「途中、気の狂った人も、呻く人もいた」
「そうね」
「ここは危ない。早く他の場所へ……」
「達哉は優しいのね」
そう言って、はにかんで見せた。ひゅうと妖しげな音を立てて、秋風が吹き荒れた。バサバサと彼のコートが揺れると同時に、彼の半透明で透き通った瞳がゆらゆら。
嘘だろ、と乾いた唸りを上げる達哉にすり寄り、男のくせに白いきめ細かい肌を撫でる。骨の凹凸以外一切余計な物の見られない綺麗な首筋にかぶりついた。
そうすれば達哉は痛みに耐えるように嗚咽を漏らし、少し顔を歪めた。そんな達哉の、血の滲み出した傷口をペロリと舐め、吸う。
「おまっ、汚いだろ!」
「そんなことないわ。ほら見て、綺麗な紅でしょう?」
「吐けよバカ!」
珍しく声を荒げ、私の背中をさすってくれる。ああ、本当に、貴方は優しくて、綺麗で、逞しくて、──とても、美味しそう。
思わず口角が上がるのが自分でも分かった。恐らく達哉は気付いていないのだろう、未だに優しく、私の背中をさすってくれている。けれど私はそんな彼の厚意を一ミリも受け取らず、ごくん、血が喉を通ってゆく生温く心地いい感覚に、人知れず興奮した。
「なぁ、なんなんだよ、俺でも分かるように説明してくれよ、」
「達哉でも?そうね、簡単に言うならば、私は人外よ」
「は?おま、仮装してその気になってるんじゃ…」
「失礼ね。仮装じゃなくって正装よ」
未だに受け入れられないと言うような表情を浮かべる達哉に、そっと抱き付いた。今夜は寒く、冷えきってしまっている達哉の背を、子をあやすように優しく撫でた。
「私はちゃんと、本当の吸血鬼よ?」
ギラリ、隠していた犬歯を剥き出しにする。驚きと受け入れられない現状に混乱して、不細工な笑みを浮かべる彼の頬にちゅ、背伸びして一つキスを落として言った。
「ねぇお願い、私を助けて」
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瑠璃?(プロフ) - 更新いつも楽しみにしてます。 とても素敵な作品ばかりで尊敬します……! 春音さんのお話に出てきた先輩は弟の姉さんでしょうか? 合ってたらお友達d)) ……これから更新されるお話も楽しみにしてます! (2016年10月29日 9時) (レス) id: 72272aaac8 (このIDを非表示/違反報告)
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