浅瀬 ページ32
小さく息を吸った彼女は、ぽそりと内緒事を打ち明けるように語りだした。
「…ごめんなさい、驚いたよね。でも、これがほんとう、私のすべて。
私はもうこの世界からはとうにいなくって、こうやってここにいられるのも今夜まで。すべてすべて、魔女の魔法に過ぎない。信じるも信じないもまふくん次第だけど、でも、私が死んだことには変わりない。」
震える彼女の唇から息のように紡がれたのは、とんだSFストーリーだった。
ちょっと待って、嘘だよね？全部全部全部全部、嘘だ。
「……そんな、冗談…笑えない、から…。今日は何月だかわかってる？エイプリルフールじゃないんだから、バカみたいなこと、言わないでよ…」
やっぱり彼女は笑った。形のいい眉を困ったように下げて、悲しそうに、笑った。
それだけで嘘じゃないことは分かった。それでも嘘だと思い込めば思い込むほど、先程の不思議な感覚が思い出される。
「まふくんは、私が死んじゃった一年前のあの日から、ずっと進めないでいるんだね。一年も、ずっと。でもねまふくん、私とまふくんの時間の流れは違うの。わたしはずーっと止まったままだけど、まふくんはそうじゃない。これからもずっと、進んでいく。…止まる必要なんてどこにもない。」
愛していた、愛している。
たとえこの体すべてを無くしたって守りたいと思った。
そんな彼女を失ったことに気付けないまま、僕はフラフラと曖昧に一年を過ごしていた。悔しさが溢れる。
逃げていた、背けていた。
彼女を失った事実から、この世のすべてから。
「…ねぇまふくん、これあげる」
「え？」
ころん、と手のひらに転がされたのは、キャラメルだった。
甘ったるいそれは確か彼女の好物だ。
「ハロウィンでしょう？ほら、これで許して、悪戯は無しだからね。」
そして、Aはまた薄く微笑んで、涙声であと、と付け足した。
どうやら気まぐれな魔女の魔法は永く続かないらしい。
「わたし、来年も絶対帰ってくるから、ここに。待ってて、」
「…じゃあ、魔除けのランタンは捨てとくね。だから、約束。」
絡むはずのない小指をお互いに突き出して、笑いあった。
幽霊と人間だなんて、あり得るはずのない話だけど、確かに彼女はここにいて、確かに僕もここにいた。それだけは本当のことだった。
「ねえAすきだよ」
「…うん、わたしも、すき」
唇と唇を、お互い、くっつけあうフリをした。
あくまでフリたけど、そこには懐かしい、少し冷たい温度があった。
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瑠璃?(プロフ) - 更新いつも楽しみにしてます。 とても素敵な作品ばかりで尊敬します……！ 春音さんのお話に出てきた先輩は弟の姉さんでしょうか？ 合ってたらお友達d)) ……これから更新されるお話も楽しみにしてます！ (2016年10月29日 9時) (
レス) id: 72272aaac8 (このIDを非表示/違反報告)
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