検索窓
今日:7 hit、昨日:23 hit、合計:6,662 hit

ルージュの甘さくらべ ページ4



 キス、したいな。
 戯れに呟いたことがある。彼は微笑った、していいの、と。その細い指でむりに視線を合わせられると、くすぐったくて、頬が熱くなりそうで、それから妙に苛立ったことを覚えている。カルシウム不足だったんだろう。だってそのときは彼の作るホットミルクのほのかな甘さなんて知らなかった。


「しないくせに」


 似合わないと解りつつ拗ねた上目遣い、くるりと踵を返して、ベッドに雪崩れ込む。また既視感が廻り出す、同じことをなぞっていく。それは飽くまでも無防備なままだった。一時間前に塗った流行りの明るい色のルージュは甘いなんて聞いてないからきっと苦いだろう。不味いんだと、私が、決めた。これがあるからいつまでもしてくれないのだと、自分自身を宥める言い訳。特に好きな色と言う訳でもないのに友人に無理矢理買わされて塗られてだから私のもので、勿体無いから使っている。哀しいことに、そんなものでも彼よりはずっと私のものなのだ、このルージュは。欲しくも無いのに手の中にある。


「誰が出来ないなんて決めたの?」


 彼はまた綺麗にわらう。ベッドに寝転んで背を向けているのに、見えた気がした。


「僕だってね、きょーみあるんだ、君に。ラム?」


 すきだからね。柔らかく相好を崩す、似合わないよ妖艶を纏う振りをするのは。わたしもきみも。
 んで、いーくんはベッドの端に座って、またラム、じゃなくてAと目を合わせて。それから。


「違う! カット!」
「私もういやだよ。何がハロウィン」
「分かるでしょ? お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ」
「いーくんに迷惑。去年みたいにクッキー作ろう」
「ここまできてそれはないでしょ」
「なんのために我慢したと思ってるの。あんたが暴れると手をつけられないの、一昨年は我慢した、去年はめちゃくちゃになった、いーくんと私の忍耐力を褒めてほしいよ」


 アルファベットのアイ。いーくんと私は彼女をそう呼んでいる。姉御肌で明るく美しく、けれど一年のうち一日だけ豹変して手をつけられなくなる不思議な女の子。まあ、普段からちょっとずれてるけど。
 承知の上で彼女とつるんではいる、でも、疲れた。今までのは彼女が書いた演劇の台本に沿ったへたくそな演技で、繰り返されてきたもので、変に甘い。きっと砂糖をとある限度以上に入れすぎたチョコレートはそんなふうに甘ったるいんだと思う。
 彼女の台本の厄介なところは、まるでものがたりみたいなところだ。

しろひつじ→←☆



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 8.5/10 (23 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
17人がお気に入り
設定タグ:歌い手 , 大型コラボ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

瑠璃?(プロフ) - 更新いつも楽しみにしてます。 とても素敵な作品ばかりで尊敬します……!  春音さんのお話に出てきた先輩は弟の姉さんでしょうか? 合ってたらお友達d)) ……これから更新されるお話も楽しみにしてます! (2016年10月29日 9時) (レス) id: 72272aaac8 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:参加者の皆様 | 作者ホームページ:ありません  
作成日時:2016年10月19日 13時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。