三枝綯子 ページ14
「ーーていうか」
彼女が口を開くと、ぬらりと濡れて光る牙が薄い唇からその姿を覗かせた。ああ、たまんねえなこのチラリズム。別になんということではない、ただ嵌め込まれただけの作り物の歯牙であるというのになぜこうも扇情的なのだろうか。
「……なぁに？」
「いや……なんていうか、久しぶりに見たせいか落ち着かなくてね」
「ああ、
そうーーそう、そこにいる彼は紛れもなく美女だった。美女に扮する男性というべきか。ともかくボルドーとチャコールの清楚で可愛らしいデザインのワンピースに身を包み、ロングの髪を巻いたウィッグを合わせて、化粧まで仕上げた彼はたしかに美女であった。
……私が男だったなら、間違いなく口説くことを考えるね。Aはもう何度めとも知れないそんなことを胸中でぼやいてみる。浮かんできた泡がぱちりと弾けるみたいに、すぐに消えた。
彼、どれすとさんは私を綺麗だなんだと調子よく褒めるが、私としてはそんな言葉は彼にこそぴったりなものだと思うのだ。綺麗、中性的、美人。ほら、どれもがあてはまる。
その彼の、今は女性にしか見えない端正な横顔を見つめてみた。きっと彼は気付く、気付いてくれるという自信があったのだ、彼女には。
彼は目の前のデスクの上にある大量の菓子とその残骸たちに手を伸ばしながら、案の定「今度はなぁに」と聞いた。ほらね、やっぱり。
……二人きりのハロウィンパーティーはきっと、来年もあるのだろう。クリスマスきっと、また二人きりだ。隣にいるのは彼で、もう一人は彼女で。そうして何年も一緒にいるのだ。
「そろそろお酒飲みませんか、きれいなおねえさん」
「いいねえ。好きなの取ってきていいわよ」
「やった」
高いの選ぼうだなんて上機嫌に言って笑う彼女が並んで座っていたソファから立ち上がる。腰をあげて前屈みになってうつむいた、その横顔を眺めていた。さらされたうなじがやっぱり好きだ、そう思った辺りで、あれ、手が体が勝手に、なんて。
「ーーん、？」
「んふ」
一瞬触れあった唇。呆けた顔で離れていく俺を見つめて瞬いたのは、たっぷりの光をたたえた星を閉じ込めた瞳。思わず笑ってしまう。どんなに格好いいことをしたって、男の格好をしていたって、きみはおんなのこでこんなにかわいいんだ。食べちゃいたいくらいにね。
きみはもう少しそれをわかった方がいい。
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瑠璃?(プロフ) - 更新いつも楽しみにしてます。 とても素敵な作品ばかりで尊敬します……！ 春音さんのお話に出てきた先輩は弟の姉さんでしょうか？ 合ってたらお友達d)) ……これから更新されるお話も楽しみにしてます！ (2016年10月29日 9時) (
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