あにゅ ページ2
足早に車両から去ろうとするAの腕を咄嗟に掴む。
掴まないといけない気がした。捕まえないと駄目だと思った。
真っ白な頭に炎のような夕焼けの橙が差し込んで、それが俺を動かしていた。それが燃えれば燃えるほど、腕にこめた力が強くなる。
「待てよ!」
「……離して。」
「どうしたんだよ急に。」
「今日はちょっと寄るところがあるから。」
嘘だ、そんな話聞いてない。
「ほらドア閉まっちゃう。離してそらる。」
離すもんか、離せるもんか。
「さっきの話は冗談だって。大丈夫だよ。」
ほら、とあやすように手を叩かれる。
なあ、なあ、A。
「大丈夫って言うんなら、」
「……なんでそんな顔してんだよ。」
なんでお前が泣くんだよ。
頼むから俺にまで無理するなよ。
伝えたいことはたくさんあるはずなのに、役立たずのこの口は上手く動いてくれない。それが酷くもどかしい。
俺たち幼馴染みじゃんか。色んなことがあったけど2人で乗り越えてきたじゃんか。いつだって1人じゃなくて2人だったじゃんか。
今度だってきっと大丈夫だよ。俺が居るよ。
2人でなら怖くないだろ。
だから、頼むから、隣に居てくれよ。
☆☆☆
「…………病気なんだって。
名前聞いたって分かんないと思うよ。私も初めて聞いたもん。なんか自覚症状が現れるのが遅いらしくてさ、私が具合悪いなと思って病院行ったときにはもう手遅れだった。
そう、手遅れ。もうどうしようもないみたい。入院すれば一応延命は出来るけどそれも長くは続かないらしいし、それなら学校行きたいなって。
いつまで行けるか分かんないけど、学校の皆とお別れする時間が欲しかった。
だから親と医者説得して、3日だけ休んでまた来たの。でもまたいつ倒れるか分かんないしさ、そらるが驚かないように少しずつ距離取ろうかなって。
あんた自分じゃ気付いてないだろうけど、私に何かあるとすんごい顔するんだよ。私はそれ結構好きだったんだけど、今回ばかりはちょっと見るのが辛いかなって。
ごめん、騙したかった訳じゃない。出来ればずっと私にお節介してて欲しい。でも私はいつか居なくなっちゃうから。ずっと隣に居てあげることは出来ないから。いつかあんたを1人にしちゃう。
……そんなの、そらるが寂しいじゃんか。
あんた寂しがりなのに、そんなの置いていけないじゃんか。
だからせめて私がいつ居なくなっても大丈夫なようにしようって思ったの。」
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瑠璃?(プロフ) - 更新いつも楽しみにしてます。 とても素敵な作品ばかりで尊敬します……! 春音さんのお話に出てきた先輩は弟の姉さんでしょうか? 合ってたらお友達d)) ……これから更新されるお話も楽しみにしてます! (2016年10月29日 9時) (レス) id: 72272aaac8 (このIDを非表示/違反報告)
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