カムパネルラと朝焼けを。 ページ1
強く差し込む西日の中で、彼女は柔く微笑んだ。
「ーーあんたと、夜明けが見たいなあ。」
カムパネルラと朝焼けを。
「……世間はハロウィンだってのに私のこのザマは何よ。」
「それはお前が馬鹿だからだろ。」
「馬鹿って言うなバーカ。」
10月31日。俗に言うハロウィン。
渋谷も原宿も池袋も、今日はきっと普段に輪をかけて賑わっているのだろう。パリピ仮装野郎共でごった返すところにわざわざ行こうとは思わないが、だからって幼馴染みと2人ガラガラの電車に揺られているというのは如何なものか。
確かに元凶は私だ。テスト1週間前に突如体調を崩し意気揚々と……否、断腸の思いで3日ほど欠席したのがいけなかった。
学生諸君にはよく分かるだろうがテスト前の授業を3日も休むというのは非常に危険な行為である。
少しでも試験範囲を広くしようと目論む教師たちが非人道的な速さで授業を進め、およそ終わらせることが出来そうもない量の課題を出し、出来なければ補習という新たな地獄に落とされる。
「まさに外道。文字通り鬼畜。」
「明らかに課題やらなかったお前が悪いだろ。」
「私は体調不良で休んでたんだこんな課題知らない。」
「誰がお前に連絡したと思ってんだよ!」
「そらるの伝え方が悪い。全然緊急性が伝わってこなかった。」
不貞腐れたようにそっぽを向けば咎めるような視線がビシバシと横顔に刺さる。
さすがに私の補習に付き合わせておきながらこの態度は不味かったかもしれない。
「はいはい嘘ですやらなかった私が悪かったですー。」
「……体調不良は気の毒だったと思ってるから俺も付き合ってやったんだからな。」
「キャーさすが神様仏様そらる様!やっぱり私にはあんたしかいないよ!」
気難しいように見えて案外単純な彼はこれだけでほだされてしまう。将来騙されたりしないだろうか。
「……そらるさぁ、昔のよしみで言うけど私以外の女子とも関わった方がいいと思うよ?」
「何だよ急に。」
「いや本当に。私が居なくなったらどうすんの?」
「…………は?」
純粋な疑問をぶつけるその声が、2人ぼっちの電車内に響く。窓から見える太陽は傾きかけていて、東の空は既に仄暗かった。
怪訝な顔をするそらるを見ないようにして立ち上がる。
「……それじゃ私、ここで降りるから。」
家の最寄り駅にはまだ遠い。
それでも私は降りなきゃいけない。
ああ、嫌だな。
あんたを1人にしたくないのにな。
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瑠璃?(プロフ) - 更新いつも楽しみにしてます。 とても素敵な作品ばかりで尊敬します……! 春音さんのお話に出てきた先輩は弟の姉さんでしょうか? 合ってたらお友達d)) ……これから更新されるお話も楽しみにしてます! (2016年10月29日 9時) (レス) id: 72272aaac8 (このIDを非表示/違反報告)
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