方程式を紐解いて ページ32
はっ、と息を吐いて、大きく吸って、少し呼吸を整えてから寮の玄関のドアに手をかけた。
ガチャン！と施錠されているドアが侵入を拒否する音を上げた。
時計を見れば午後８時すぎ。
そりゃそうか、と考え無しな自分にがっくりと頭を下げた時、内側からカチャリと開錠の音が聞こえて開けられたドアから会いたかった人物が覗いていた。
「A…」
「いいから、早く入って！」
ぐいっと手を引かれて、寮内へ。
「もう！こんな時間に寮に来てるってバレたら怒られるよ！」
「う、ごめん…。でも、なんで？」
「これから祐希くんが寮に行くって連絡があったの」
ほら、と見せられた画面には先ほど部室の鍵を託して置き去りにしたチームメイトからのLINE。
祐希がそっち行ったから鍵開けてあげて
おお、さすが！ファインプレー。
ありがとう、と心の中で呟いた。
「あの、それで…どうしたの？急に…」
「あー、話をしたくて。大事な話だから、早く話したいと思って」
「…じゃ、こっちに」
誰もいない談話室。
もしかして、部屋に入れてくれるかも、なんて浅はかな期待はガラリと崩れて。
残念な気持ちを顔に出さないように談話室のソファに並んで腰を下ろした。
お風呂上がりなのか、少し濡れた髪からいい香りがして鼻先を寄せようとした時に、話ってなに？と切り出したから、ピタリと動きを止めた。
「あ、うん、あの…うまく言えるかわかんないだけど」
「うん…」
だけど、いざとなると何から切り出せば良いのかわからなくて。
だから、ゆっくりと確かめるようにひとつずつ。
自分の環境が目まぐるしく変わりつつあること、試合、練習、遠征なんかでなかなか側にいれないこと。
そして、思いもよらないほどに注目されて、いつしかAの存在も小さな噂になってしまっていることも。
たどたどしくもぽつりぽつりと言葉を紡いで。
私は大丈夫。
いつだって、Aはそう言って笑ってくれるけど、最近その笑顔が曇りがちなこと、いくら鈍い俺だってちゃんと気付いてるよ。
だけど、２４時間ずっと側に寄り添っていられないこともわかってて。
だから、今日から"内緒の恋"をしよう。
誰にもバレないように、ふたりだけの秘密の恋をしよう。
静かな談話室で捻り出した答えを、君はどんな顔をして聞いてくれる？
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 267人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ユイ(プロフ) - 初めまして、読んでいくうちに続きが読みたくなりました。新しいHPを教えてください。 (10月19日 21時) (
レス) id: 30678c49ef (このIDを非表示/違反報告)
Yuri(プロフ) - はじめまして。以前から読ませてもらって、また最初から読み直しました。新しいホームページは消してしまったのでしょうか？？ (2018年6月30日 20時) (レス) id: 258a85c425 (このIDを非表示/違反報告)
まる(プロフ) - 初めてコメントします。この作品ずっと読んでます。宜しければ新しいHPを教えてください（ ; ; ） (2017年6月20日 9時) (レス) id: 43856cab70 (このIDを非表示/違反報告)
yukim8216(プロフ) - こんにちは。新しいHP教えて頂けますでしょうか？『ナノ』でそこからトップページからログインしてからどうすれば見れるのか分からなくて。前はそのHPで見てのてすが。ごんなさい、教えて頂けますでしょうか (2017年5月6日 7時) (レス) id: 343ef2b4f0 (このIDを非表示/違反報告)
RON(プロフ) - nattuさん» ありがとうございます。新しいＨＰで加筆修正したお話をアップしています。ぜひお越しください^_^ (2017年3月10日 14時) (レス) id: bdef7d3ec7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：RON | 作成日時：2016年7月27日 22時
