【d!】春雷の喝采を【演劇部企画前編】 (ページ6)

今日:10 hit、昨日:0 hit、合計:8,955 hit

△ ページ6

｢あ、先輩…｣

『…チーノくん』

上りきって、彼の姿を探そうとした時。横から声がかかり、そちらを向くと。呼び出した張本人の彼がいる。

｢…すみません、呼び出して。｣

『ううん、大丈夫。それで、なんの用事？』

｢あの日のこと、覚えてますか？｣

『あの日の、こと？』

きっと彼は、あの日。

___夏のあの日のことを言っているんだろう。

｢はい。…あの日、先輩は言いましたよね。“部員同士”の恋愛は、ダメだって｣

『…うん。そうだね』

彼が言いたいことは、何となく。いや、確実に分かっていた。今までのチーノくんの行動は、あからさまだったし、私も知らないフリをしていたけれど。それがどんな意味を持っていたかなんて、最初からわかっていたんだと思う。

｢…もう、先輩は。“部員”じゃ、ないですよね。｣

『そう、だね。私はもう、“部員”じゃないよ。』

そう言うと、彼は意を決したようにこちらを見つめる。あの日のように、伺うのではなく。真っ直ぐな瞳で私を捉える。

｢俺、やっぱり諦められませんでした。あの日、先輩が言った言葉を、そのまま受け止めて。今日まで、待ちました。｣

『…うん。』

｢先輩…。A、さん。僕は、っ…俺は。あなたの事が、好きです。俺と、付き合ってもらえませんか！｣

あの日まではチーノくんのことなんて、ただの後輩としか思っていなかった。

でも、真っ直ぐに向けられる気持ちにどんどんと絆されていた。彼の、一生懸命なところに、惹かれていた。

『チーノくん。』

｢は、はい｣

『今日まで、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれてありがとう。…私でよければ、よろしくお願いします。』

キラキラと陽の光を反射する彼の瞳には、薄らと膜が貼られ。泣きそうになりながら、私の手を引いて強く、強く抱きしめた。

｢…おれ、めっちゃ幸せっす｣

『…私も』

.