第20話 ページ20
ノックされて我に返る
A「はい」
気の抜けた返事をすると、
開いた戸口から尊奈門が顔を覗かせて
Aを見るなり呆顔をした
諸泉「やっぱり…」
A「？何が」
救急箱を小脇に抱えて
Aの前迄やって来て腰を降ろす
諸泉「お前なあ……怪我して戻ったらすぐに手当して貰えよ」
A「したよ」
諸泉「それは手当じゃない…」
湿布の冷んやりした感じで痛みは程々だったし
小頭や尊奈門にはしっかり説教されたし
任務の報告書やらですっかり忘れていた
お風呂の時も面倒で放ったらかしにしていたA
尊奈門が無様な湿布を丁寧に剥がすと
血が滲んだその口元を見て顔を歪めた
何やら手当をしてくれるらしいので
Aはそのまま任せる事にした
諸泉「こんな職業でもお前だって女性なんだから
後遺症なんて残ったらどうするんだよ。折角綺麗な顔をしてるのに」
A「………」
無意識にも程がある程、不意にそう言われて少し照れくさかった
消毒液が傷口に滲みる
相も変わらず顔が近くて目線がどんどん下がる
治療をしてくれているので兎や角言えないが
悶々としていると顎を掬われ、ばっちり目が合った
顔が熱い。不覚にも早くなる鼓動
幼馴染とは言え距離感がバグってる
目を瞑ろうとした──
諸泉「…痛かっただろう、可哀想に
……守ってやれなくてごめんな」
意外な言葉がふってきたので
思わず動揺した
事の発端は全て私の行動の所為なのに
軽く手を添えて手当を続ける尊奈門の表情は
何処と無く悔いさえ感じる
内側にヒビが入る
目の奥がじんわり熱い
諸泉「泣かずによく頑張ったな」
──途端に大粒の涙が零れて
今頃発症したかの様に頬が徐々に痛み出す
どれだけ忍者に向いていると言われても
こう内側を包み込まれる様な優しさには滅法弱い
触れられればすぐに壊れてしまう
──殴られた時、痛くて痛くて堪らなかった
ただの代償だと覚悟していたがやっぱり怖くて
きり丸を怖い目に遭わせてしまった事
傷を負ってしまった事
今居る目の前の人に二度手間をかけて
今も兄貴面されている事
そのどれをとっても悔しくて堪らない
尊奈門が何も言わずに
乾いた脱脂綿で涙を拭き取ってくれるけど
止まりそうにない
忍者失格である
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作者名：成瀬 | 作成日時：2022年7月25日 16時
