第18話 ページ18
出入口の一つが塞がれた
支配人「貴様、此処で何をしている？」
A「お掃除?」
支配人「ッ！！」
抜刀し振り下ろしきる前に距離を取った
出で立ちと倉庫の厳重さを重んじるに
この屋敷内で一際権力を持つ者だろう
男のこめかみに青筋が浮き出ている
力任せの脳筋は苦手なんだ
戸棚を盾に隙をついて男の背後を取り、
床に押さえ付けてうなじに苦無を当てた
支配人「貴様、何者だ…！！
俺を殺せば連中がすぐに駆け付けてくるぞ」
Aは無言で力を込めると
男が苦痛の悲鳴を上げだした
身動きが取れず諦めたのか、抵抗をやめた
支配人「……上の者に告げるのが貴様の仕事か」
A「…この屋敷は何の為に造られたんですか」
そう尋ねると、男は何かに気づいた様子で
しばらく口を噤んだ後、目を伏せて語り始めた
支配人「……俺達は…城主のやり方が解せなかった
横暴さに屈服し、仲間が苦しむ姿をこれ以上見ていられなかった
これが俺達の最適解だ。彼奴の困惑する様を最前で見たかった」
そんな煽り体で安易に行動出来る所が
逆に羨ましく思えてくる
まだ若い善心が善き方向に働いていたとすれば
結果は全く異なっていた筈だ
支配人「何が目的だ。何故俺達の妨害をする」
A「その善心が尽きる前に、まだ引き返す余地はあると
遠回しに助言する為です」
だが──
俺達はそれでも許せない
散々こき使われ、搾取され、翻弄され続けてきた
何時も弱者が服従させられるこの屈辱に耐えられなかった
A「然し罪悪感には目を背けられなかった。
そこの文を捨てられない内は」
支配人「……」
──尊敬出来る面も、優しさも
怒りで忘れてしまっていたんだ
集団ならば特に、統轄者が存在しない限り
酷く単純な考えで自らの首を絞める事になる
人に何かをして欲しいなら先ずは自分から
努力して費やした分だけ必ず報われる
両者足りなかったのはさしずめ思い遣りの心だ
支配人「俺は…俺はただ……」
本当に欲しかったのは心からの謝罪
以前の様な人望溢れるお方に戻って欲しくて
悔しさから再び募る罪悪感
A「貴方は決して悪くない。然し、過ぎた事を悔やんでも遅い
前線一筋では何れ敵の意のままになる
陥れるならば裏をかかねばなりません
…お屋敷まで建てたのに、勿体無い事をしましたね」
支配人「貴様は…貴様らは何者なんだ」
A「ただの裏方ですよ」
尊奈門の気配を今度は見逃さなかった
話は以上、そそくさと屋敷を後にした
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作者名：成瀬 | 作成日時：2022年7月25日 16時
