ノスタルジア 3 (ページ10)

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卒業式の日、果たされなかった交わした約束

引越しの日、会いに行くと言って結局行かなかったその日に受け取るはずだった、当時人気だったシリーズものの推理小説

それはそこだけ時間が止まってるみたいに色褪せることなく経年劣化を感じさせなかった

それはたぶん、涼太がずっと大事に保管してくれてたからなんだと思ったら胸がぎゅっと締め付けられるような痛みが走った

何か言葉にしなくちゃって思うんだけど何も言えなくて

気まずい空気だけがそこにあって、どうにも息苦しくて堪らなかった

少しして気まずい沈黙を破り、涼太が徐に立ち上がると真っ直ぐに棚の方へと歩き出した

そして、ずっと渡されなかったその本を手に取ると、そっと目を細め表紙を眺めた

その本の表紙を眺める表情は過去を懐かしむような、どこか憂いを含んだ顔で

何を思ってるのかまでは掴めなかったけど‥‥

dt「はい。」

俺の前に再び腰を下ろすと、その本を手渡した

dt「やっと返せた」

優しい口調でふっと笑を零す涼太

あの日の事、忘れてる訳ない‥‥はず

俺なんかよりずっと辛い思いをさせてしまったんだから

ゆっくりと手を伸ばし、その本を受け取ると懐かしい質感に当時の記憶が蘇る

普段そこまで好んで本を読むほうじゃなかったのに、この小説だけは夢中で読んだっけ

大好きなシーンは何度も読み返したりして

だから涼太が読んでみたいって言ってくれた時、またひとつ俺と涼太の共通点が出来ると思って嬉しくて翌日にすぐ涼太に貸したっけ

nb「涼太、あのさ‥‥」

dt「あぁ！もうこんな時間だ。翔太、電車大丈夫？間に合うの？」

涼太が思い出したように聞いてきた

俺も確認したけど、まだ十分間に合う時間だ

nb「ねぇ涼太、ちょっと聞いて欲しい事があって‥‥」

dt「明日も仕事でしょ？帰ったほうが良くない？」

なんか、俺の話をはぐらかそうとしてるように聞こえるんだけど、気のせいか？

だけど、自分の気持ちを伝えられなくても、せめてあの日の事を謝罪したい

nb「あの時の事なんだけど‥‥」

救急箱の中身を整理していた涼太の手が、俺の一言でピタリと止まった