ノスタルジア 3 (ページ9)

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簡単に説明すると、店の前でウダウダしていた俺が意を決して店の扉を開けようとしたんだ

と同時になかなか戻ってこない俺を心配して探しに出ようとした涼太と

見事なまでにシンクロして、扉の前に立っていた俺は

涼太が押し開けた扉におデコを打ち付けてしまったというわけだ

で、俺は軽くパニック起こした涼太に引きずられて、2階にある涼太の居住スペース、言わば自宅ね

そこに連れてこられて涼太に手当をうけてるんだけど

もうね、ぶつけた痛みなんて全然感じないぐらい、今の俺は緊張で落ち着かない

こんな形ではあるものの涼太の自宅に連れて来られてしまったし、想像していた以上に部屋綺麗だし、めちゃめちゃ良い匂いするし

手当に一生懸命な涼太の顔がめちゃくちゃ近いし

涼太の手が俺のおデコに触れる度に微かにコーヒーの香りが鼻を掠める

それが何だか妙にドキドキして堪らなかった

dt「絆創膏はるよ？」

幅広の絆創膏を用意していた涼太が、俺の前髪を上げながら確認のため俺の顔を覗き込んだ

nb「ーーーっ！！？」

もう言葉にならない感情が溢れてしまって逆に具合悪くなりそう

dt「はい、完了。本当にごめん翔太」

nb「だから、もう平気だって」

dt「あの、傷残ると大変だから念の為病院に行ってね？」

nb「だぁから大袈裟なんだよ！女子じゃないんだから」

俺が女子だったら『責任取れー』とか言えたかもしれないけど、そういうノリでも無いし、ましてや傷も正直言って大した事無いし

なんか色々考えだしたら虚しくなったから話題を変えようと辺りを見回した

nb「あっ‥‥」

アイアン製のオープンシェルフには涼太のセンスが光るシンプルな置時計に小さめの鉢に植わった観葉植物のパキラ

色と形が統一されたボックスがいくつか並んでて

料理の本が何冊か並んでる中に1冊、見覚えのある背表紙に目が止まった

ほとんど無意識に出ていた声に気づいた涼太が振り返り、俺の視線の先に目を向けた

dt「返しそびれて10年経っちゃったね‥‥」

涼太が俺と同じ方向を向いたまま、目を細めてそう言った

たぶんきっと、お互い同じ記憶が脳裏に浮かんでいるんだろう。でもそれを口に出せないでいるのもきっと‥‥

言えない思いが同じなんだと思う