最愛の悪役さん【ヒロアカ】 (ページ19)

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放課後、上着を返すために公園へ行くと、タイミングよく黒霧さんが現れた。案内されるがまま、黒いモヤモヤの中へ足を踏み出すと、すぐさま昨日訪れたばかりのバーの内装が見えた。

「よお、待ってたぜ。A」

「昨日ぶり、ですね。」

死柄木さんはグラスに口を付けながら、隣の椅子の座席部分をポスポスと叩いた。座れ、という意味なのだろう。素直にそこへ腰かけると、目の前にお菓子の乗ったお皿が出てきた。昨日食べた、無害な甘いお菓子だけが乗っている。

「お前のこと、少し調べたんだけど」

「私の、こと」

「父親は詐欺事件の主犯格で、母親は行方不明。虐待を受けていた形跡があったから児童相談所へ預けられ、後に孤児院へ横流し。その孤児院でもあんまりいい待遇受けてないんだろ？」

「はあ、まあ……？」

いい待遇、とはなんだろう。少なくとも、ご飯が食べられて、痛いことも極力されない現状の方がよっぽど良いのだけれど。

「先生がさ、お前が中学卒業したら引き取ってくれるってよ。」

「そう、なん、ですね？」

「言ってる意味あんまりわかってないだろ」

死柄木さんがお菓子をひとつつまみ、それをそのまま私の口に押し付けた。

「お前の何が役に立つかは知らないけど、先生が言うなら役に立つんだろ。」

食べろ、と目線がそう言っているので、口を開けて舌の上にお菓子を転がした。サクサクとほろけて、甘い風味がした。

「あ、そういえば先生がこれをお前にやれって」

紺色の袋に、平べったい何かが入っている。渡されたものを受け取ると、ずっしりと重い。

中を開けてみると、“ひらがなドリル”と“カタカナドリル”と“かんじドリル1年生”というタイトルの紙束が出てきた。

「さすがに馬鹿にしてんだろ、って思ったけど、小学校も行ったことないだってな。」

「はい、」

「もしかして文字、読めない？」

静かに首を縦に振った。読めないことは無いのだけれど、読める文字は少ない。授業に出てくる問題も、ほとんど読めていない。

「お前、テストとかどうしてんの？」

「えっと、似ている問題があったので、ひとつずつ思い出しながら、書いてます」

「ある意味天才じゃん」

文字が読めなくて不便なのは私も同じなので、ありがたくドリルは頂くことにした。別れ際、死柄木さんから「また来いよ」と言われたので、明日もここに来ることになった。